第9話 水着回だよ全員集合。
「海だぁー!!」
「美波ちゃん、早く早く!」
「マイちゃん待って……Tシャツうまく脱げない……」
「み、美波ちゃん、その水着……」
舞は絶句した。その理由は、美波の水着がどう見ても小学生の時に使用していたスクール水着だったからだ。
「ちょっと青嶋くん、海へ行くのに美波ちゃんに水着用意してあげなかったの?」
「いや、持ってるって言うから……」
「流石に中学生でこれは可哀想だよ。たぶん向こうにまだマシなの売ってるから美波ちゃん行こ?」
「うん……」
2人は売店へと向かった。
「女の子は大変なんだな」
「そうね。私も水着持ってなかったから、舞に選んでもらったわ。でもやっぱりみんなに比べて派手じゃないかしら? 舞にはこれが良いってのせられちゃったけど……」
「に、似合ってると思うぞ……?」
後藤さんの水着は黒のビキニだった。確かに少し露出が多い気がするが、小浦ナイスだ。
我が妹は可愛くなって戻ってきた。
「おにぃどお?」
シンプルなネイビーのワンピースタイプの水着だった。
「最高!! さすがは我が妹」
「ふふ……」
嬉しそうに笑うと、美波は肩までの金色の髪をなびかせた。
「小浦ありがとう、いくらだった?」
「いいよ。美波ちゃん可愛いし、あたしがプレゼントしたいの」
「そういう訳には……」
「ところで青嶋くん、あたしの水着姿には感想ないの?」
フリルがあしらわれた赤のビキニを見せびらかす小浦。
「か、かわいいです……」
「でしょう? これすっごいお気に入りなの!」
俺が可愛いと言ったのは、あなた自身だったんだが、喜んでいるようで良かった。
「ビーチバレーで負けたチームは、お昼奢りだよー!」
俺と美波、小浦と後藤さんでチーム分けをした。
「喰らえ、俺の必殺サーブ!」
は、ネットを越えなかった。
「おにぃ、ダサい……」
妹から向けられたくない視線が痛い。
「じゃあ次はこっちが行くよー!」
しっかりと負けて、俺はみんなのお昼をご馳走した。小浦には美波の水着で世話になったから、負けて良かった。
海の家のテーブルで昼食をとっていると、小浦が物欲しそうな目で見つめてきた。
「ねぇ青嶋くん、その焼きそば一口ちょうだい?」
「ん、おう、どーぞ」
「じゃあお礼に私のたこ焼きあげる。はい」
そう言って、小浦は楊枝にさしてあるたこ焼きを向けてきた。これは、まさか「あーん」のやつなのか。ここでキョドってはいけないと思い、俺は自然にそれを受けた。
「美味しい?」
「ん、うまい」
おいちょっと待て、なんだこれは……。海か? 夏がそうさせるのか? いや舞い上がっているのがバレてはいけない、落ち着け俺。落ち着くんだ。
そこに美波が言ってはいけない言葉を吐き出す。
「おにぃとマイちゃん付き合ってるの?」
「ち、違うぞ美波ぃ……」
たぶん俺の顔は歪んでいる。
「もし付き合ってたら、美波ちゃんはどう思う?」
小浦は横目で美波に尋ねた。
「は?」
何聞いてんだこの人? やっぱり夏で頭おかしくなってるのか?
「マイちゃんならいいよ。優しいし綺麗だし怒らなさそうだし……」
「妹公認いただいちゃった♪」
と、視線をそのまま俺に移した。
「ちゃった♪」じゃねーよ! ホントこれどーゆーことー? ドッキリですか? どっかにカメラあるんですかー?
俺は隣の後藤さんに耳打ちをする。
「なぁ、今日の小浦なんかおかしくないか?」
「何が? いつも通りじゃない」
「いや絶対おかしいって……」
「そんなに思うのなら本人に聞いてみたら?」
「お前おかしいだろ、なんて聞けるかっ!」
俺か? 俺がおかしいのか?
俺は目を覚ます為に少し風に当たりたくなって、昼食後は1人別行動をとった。
「マジでどうしたんだろ小浦のやつ……」
テトラポッドに座り黄昏る。みんなの様子はここからも見えた。すると、2人組の男が彼女たちの傍に寄ってきた。「ナンパかなぁ」と思っていると、様子がおかしい。男の1人が小浦の腕を掴んだ。それが見えた瞬間、俺は走り出していた。
「小浦っ! どうしたっ?」
「青嶋くん、この人たちしつこくって……」
「なんだ男いたのかよ」
「だから言ってるじゃない!」
「すみませんが、そういうことなんでお引き取り下さい」
「はあ? どういうことだよ? 声かけるのは俺らの自由だろ?」
「断るのも彼女たちの自由っすよね?」
「女の前でかっこつけたいのは分かるけど、年上にその態度はなんだよお前」
「小浦、後藤さん、美波連れて大人のいるところ行ってくれ」
「でも……」
「大丈夫だから」
「分かった……行こ美波ちゃん……」
「おにぃ……」
小浦達は美波の手を引いて走り出した。
「何勝手に話し進めてんだてめぇ? おい、女抑えろ」
片方の男がみんなのところへ向かおうとするのを腕を掴んで止めた。
「話し合いましょうよ」
「じゃあこの手離せやコラァ」
男たちはヒートアップしていた。
そこからはあまり覚えてないけど、結構殴られた気がする。後藤さんが呼んできてくれた警備隊の人が駆けつけると、男達は逃げていった。
「ごめんね、青嶋くん……」
横になって休んでいると、みんな泣いていた。
「大丈夫、このくらいすぐ治るよ」
「何か冷やす物買ってくるわ……」
後藤さんは売店へ向かった。
「おにぃ、なんでやり返さなかったの……?」
「まぁ怖かったのもあるけど、俺は別にあいつら殴っても得しないし、みんなが逃げられればいいかなって」
「怖かったのに、なんで……?」
「そりゃ、可愛い妹にダサいって言われたままじゃ嫌だからだよ」
「それだけ……?」
「それだけ」
「おにぃかっこいい……」
美波は俺に覆い被さって泣いた。
「ちょ、そこ痛いっ……」
「やっぱダサぃ……」
みんな無事だったし、大事にしたくないのでこの件は警察には届けなかった。翌日、美波が俺の部屋へやってきた。
「美波、どうした?」
「どうやったら、おにぃみたいに勇気でる?」
「うーん。好きな人が、出来たらかな……」
「マイちゃん?」
「それは秘密」
「じゃあどうやったら好きな人できる?」
「にいちゃんのこと好きじゃなかったの!?」
「好きだよ」
「あらら、それは予想外な答えで。光栄です」
「おにぃはどんな時に人を好きになるの?」
「そりゃ……好きになったときだよ」
「答えになってない」
「そーゆーもんなの!」
「そっか。そーゆーもん……か」
「まぁ俺にでも分かる事は、自分から行動しないと何も始まらないってことかな。もちろんそれでもダメな時なんて山ほどあるし、俺もそれはもう沢山振られたよ。でも、後悔した事は一度もない。だから恋ってすごいと思うよ。失敗しても後悔する事ないんだから。美波もそんな恋を見つける為に、学校、行ってみてもいいんじゃねーか? 勉強なんてしなくたって、たぶんなんとかなるって前例を、にいちゃんが作ってやるよ」
「やっぱおにぃ、かっこいい」
「ちょっとこっちに来たまえ」
「なに?」
美波がゆっくり近付く。
「大好きなにいちゃんがチューしてあげよう」
「やめてー! ハナセー! やっぱキモいー!」




