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サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜  作者: 野谷 海
第1部 夏

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プロローグ 3度目の正直



「お前……もういい加減諦めろって……」

「そうだよ。2度あることは3度あるって言うじゃん」


「馬鹿野郎! 3度目の正直とも言うだろう!」

俺のことを想って止めてくれている友人達の言葉に耳も貸さず、俺はその場を離れて電話をかけた。


「もしもし……」

 

「小浦、ごめんいきなり電話して……でも俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」

 

「…………」

沈黙が、痛い……心が張り裂けそうなくらい、パンパンに膨れ上がっている気がする。

 

「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」


 ――分かってた。

 さすがに同じ相手に2回も振られていれば、こうなることは心のどこかでは分かっていたんだ。……でも、言わずにはいられなかった。それが、本気で人を好きになるってことだろ……?


「そっか……何度もごめんな。これでもう、最後にするから……」

 

「ううん。あたしこそ、気持ちに応えられなくてごめんなさい……」

彼女の謝罪の言葉は、俺の膨れ上がった心に、プスッと静かに針を刺した。――これ以上はもう、小浦にも迷惑なだけだ。潔く身を引こうと、涙を呑んで電話を切る。


 

 高校1年生の冬、俺は忘れられない失恋をした。

 こんなに人を好きになったのは、初めてだったんだ。


 

 俺が彼女――『小浦 舞(こうらまい)』に惹かれたきっかけは、単純に見た目がタイプだったからだ。そこに高尚な理由などはない。

 

 彼女が振り返ると、まるで高級な絹のスカートのようにフワリとなびく、肩までのブラウンの髪。見つめられると吸い込まれてしまうような、綺麗で透き通った、髪と同じ色の瞳。彼氏でもないのに、他の男には見せて欲しくないと思ってしまうほど、白く艶やかな肌。思わずうっとりと見惚れてしまう、しなやかな手。髪を耳にかける仕草、少し低めの身長。

 

 ――そんな彼女の全てに、俺は魅了されていた。


 ***


 3度目の告白から半年ほど前――


 彼女にアタックをする為に、俺は小浦と同じクラスの男友達に頭を下げた。

「頼む! なんとか話を通してくれないか?」

 

「じゃあ、1週間昼飯奢ってくれる?」

 

「そのくらいお安い御用だ!」


 取引が成立して小浦のクラスに入ると、その友達が大声を上げる。

「小浦、こいつがお前に話があるんだってさ!」

「おい! お前いきなりそんな言い方あるかよ!」


 俺はいきなり訪れた公開告白ばりのシチュエーションに、オドオドと髪を触ったりネクタイを真っ直ぐに伸ばしたりしていると、小浦が今まで話していた友人達に囃し立てられながら近付いてくる。

 

「どうしたの?」

 

「は、初めまして! 俺は6組の青嶋 将(あおしましょう)って言います!」

 

「そんなにかしこまらないでタメでいいよ?」

クスッと笑う天使のような小浦。

 

「そ、そっか! ありがとう」

ダメだ。いざ本人を目の前にすると緊張して何を話していいか分からない。


 その様子を見た取引相手が助け舟を出す。

「こいつ、小浦と話したかったんだってさ!」


「そっか……わざわざ2組まで、ありがとね」

その笑顔が、愛想笑いだと分かっていても俺は胸の高鳴りを抑えることが出来なかった。


 舞い上がった俺は難しいことなど考えられず、単刀直入に本題を切り出してしまった。

「いきなりなんだけど、連絡先交換してほしい!」


「おい、お前それは本当にいきなりだな!」

男友達は思わずツッコミを入れる。


「いいよ。今スマホ持ってくるね」

 

「え? いいの……?」

俺達は顔を見合わせると、2人とも宝くじが当たったかのような顔をしていた。ま、当たった事なんてないけれども……。



 その日から、俺の一喜一憂が始まった。

 このメッセージのやりとりを絶やさないよう、すぐには返信しなかったり、10文字以内の返信に3時間悩んだり、スマホを方時も放さず浴室にまで持ち込んだ。


 メッセージの履歴が長くなればなるほど、反対に彼女との距離は、段々と近くなっていくように感じた。


 その甲斐あって、俺達は何度か2人で遊びに出かけた。


 そして夏休みになり、仲の良い男女6人のメンバーで行った花火大会の夜、俺は1度目の告白をする。


「好きです……付き合ってください」


「ごめんなさい。青嶋くんとは、これからも友達でいたい……」


 俺は家に帰ると、風呂にも入らず一晩中涙を流した。翌朝、鏡に映る腫れた顔を見て、自分が本気だったことを再確認する。

 

「諦めてたまるか……」


 俺は今まで特別何かに打ち込んだ事はない。高校でも部活には入らず、将来の夢もまだ決まっていない。そんな俺が、初めてこれだけは譲れないって思った。


 それから3ヶ月ほど経った文化祭の日、俺は2度目の告白をする。結果は1度目と同じ。


「将ちゃんは十分頑張ったよ……そろそろ次の恋、探そうぜ?」

友人にはそう励まされたのだが、俺の心の火は、まだ消えてはいなかった。


「まだ、諦めない。諦めたくない」


「おいおい、流石にそれ以上やったら嫌われるぞ?」


「次でダメなら諦める……だからもう1回だけ、頑張ってみるよ」


 ――こうして時は、現在に戻る。


 ***


 ボロ雑巾のような泣きっ面の将と、その勇気を讃える友人たち。彼の高校1年生の思い出は、そのほぼ全てが苦い失恋の記憶となったのだった。

 

 これは、辛い失恋を乗り越えた将が高校2年生になり3ヶ月が過ぎた頃、夏の訪れとともに始まる奇妙な3角関係の物語。

 


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