出会いと、別れ。
私はよく、そんな装備で大丈夫なのかと聞かれることがある。
もちろん大丈夫であると自信をもって言える。
例えばこの杖。使用者の思った通りの魔法が出せるすごい杖だ。
場所によっては詠唱とか呪文を唱えて魔法を出す人も多いだろうが、
なんと何も唱えずに、無制限でどんな魔法でも使えてしまうのだ。
いつでもどこでも大声を出さずにファンタジーができるのだが、
杖を持たねば使用できないというのはもちろん、
使う本人の魔力は当然ながらゴリゴリ減っていく。
でも寝言で呪文を誤発するより全然マシだと私は思う。
あと、私の背負っているこのちょっと小さなカバン。
質量に限界無くなんでも入るし、手を突っ込めばすぐに取り出せる。
原理は分からないがカバンに向けてコマンドを唱えれば、
なんか勝手に動いて収納とか攻撃とかできてしまう。
おかげで手荷物は杖とカバンだけで済んでいるのだ。
いやぁ、気軽に旅ができて楽だなァ。
すごい装備で自由に世界を巡れるだなんて、最高じゃないか。
旅の思い出も増える一方! 次はどんなものが見れるかなー!!!
……はーあ。
私は、草原の道を永遠と進んでいる。
なにもない、木すらない、岩すらない。
獣もおらん私しかおらぬ。
食料調達も不可能で、恵みの雨もふらぬ。
ただ青空と草原の地平線へと続く道。
最後に訪れた街からいったいどれだけ歩いたのだろう?
かれこれ1週間ほど同じような景色が続いている。
あれだろうか、これが無限ループしているというやつであろうか。
いつのまにか同じ場所を繰り返し、永遠と抜け出せなくなるヤツ。
そしてそのまま無限に続く道のド真ん中で生涯を終える……とか?
「……へ、へへへ……」
思わず変な笑いがこぼれた。
ドラゴンが飛ぶ世界かと思えば現代都市がそびえていたり、
蒸気機関車が走っている世界もあれば車が空を飛んでいたり、
サムライがいる世界もあればスライムと戦う騎士がいたり。
古今東西奇想天外なキメラ異世界である以上、
なにが起きても不思議ではないのだ。
あろうことか私の手に持つ杖ですら、最近使用できていないのだ。
魔力切れなのかなんなのか、なぜ使えないのか分からない。
カバンはいつも通り使えるが、
あいにく足が速くなるポーションもバイクも入っちゃいない。
いやバイクは入ってはいるが数年前に事故で鉄くずになっている。
昔使いまくってた杖も粉末になって袋に入っている。
とにもかくも、どこか、はやく街を見つけなければ……、
「……あー……そうだ、カバンアタック……なんだっけか。」
もう、疲れすぎて頭が回っていない。
確か背負いながら飛べるコマンドがあったような気がするが、
全く思い出せない。気づけば私は立ち止まっていた。
「あー……カバンアタック……浮遊? えーっと、アレ……?」
「あの、大丈夫ですか……?」
「んにゃ、大丈夫だなんとかなる、うん。」
カバンのコマンドはだいたい英語とかで成り立っている。
適当に浮くとか飛ぶとかを英語で言えばなんとかなる。
ウィングとか、フライとか……?
あーでも、フライアウェイはありそうだな……。
意味は分からんがなんか飛びそうな文字の並びだからな。
「えー、カバンアタック、フライァウェィ。」
「……ほんとに大丈夫です?」
「ぁー大丈夫だ、問題……ん?」
しっかりと耳に声が聞こえた。
自問自答で大丈夫かと言ったかと思えば、
横を見ればいかにも冒険者っぽい少女がいた。
「……なぁーにものだ貴様ァ? 私ァ飯なんてもってねぇぞォ?」
「そんな世紀末フェイスで言われても分かりますよ……。」
「そこのお嬢ちゃん、どこかに街ィ、知らないかぃ?
私はねェ? ちょっとその街に用があってねぇヘッヘヘェ……」
「す、すみません、知らないです。
知らないのでそんなに近寄らないでください!!!」
「私はずっとこの道を歩いてきたんだァ、
ちょと飯ぐらいよこしてくれたッていいじゃねぇかァハッァ……」
「あげます! あげますから! ヨダレ垂らさないでください!」
……と、必死の交渉の末に、私はパンを手に入れた。
久しぶりのご飯はおいしい。ちょっとパサパサしているが、
いままで食べたパンより一番おいしく感じる。
「フフフ、フフヘヘヘヘェァ……」
「……よ、よっぽどおなかが空いてたんですね……。」
「そりゃぁもう3日ぐらい食べてなかったからねぇ?
まさかここまでなにもない場所を歩くとは思わなかったよ……。」
「3日もそんな状態で?」
「ああ、ほんとはこの杖でご飯とか水がたくさん出せるんだが、
最近調子が悪いのか、魔法を念じてもなにも起こらないんだ。」
「へぇ……ちょっと触ってもいいですか?」
「ん、ああ、いいぞ。」
私はパンを片手に杖を彼女に手渡そうとする。
そして、その瞬間だった。私は吹き飛ばされた。
周囲は一面にして宇宙の星々、銀河のような景色に変わり、
その中心には彼女と、渡した杖があった。
彼女が杖に触れた部分から宇宙創成でも起きたかのような、
壮大で、理不尽で、とってもきれいな光景。
重力を感じる宇宙旅行。思考は停止していたが、
目は必死に、この光景を焼き付けようとしていた。
『生存率超低下:危機を感知
周囲の状態を確認……対処を開始
オートモード カバンアタック:テイクオフ』
そんな中、頭の中に名響くように声が聞こえた。
私はすぐ寝ぼけていた思考を叩き起こし、自分の状況を理解する。
もう寸前まで地面が見えていたがとりあえずッ、
『飛べ! とりあえず彼女のところに!!』
そう頭の中で言葉を叫ぶと、
背中にしょっていたカバンのひもがキュッと締まり、
吹き飛んでいる勢いのまま加速し、カバンが舵を切り始める。
まるでジェットパックを背負っている気分。
このまま宇宙の景色を堪能しながら彼女の元に戻ろうと、
前を見たら今度は彼女を中心にして宇宙が収縮していた。
いったいなにがおこってるんです?
地面にフッと降り立つ頃には、景色はすっかり草原に。
目の前には、ただ茫然と立ちながら両手で杖を持つ彼女が。
「えーっと、あの、なんで……?」
彼女は私の声を聴いて、ゆっくりと顔を上げる。
そして、どうすればいいのかわからないのか、変な動きをし始める。
彼女も彼女で困惑しているようだ。
「杖を持つとき、宇宙のこと考えたか?」
彼女は首を横に振る。
「そもそも宇宙ってなにか知ってるかい?」
彼女は首を縦に振って頷きまくった。
なんでこんなヤバいことが起こったのかがまったくわからん。
私はじっくり、なめまわすのように杖を見つめて、
特に変わったところはないかを確認。
ゆっくりと彼女に近づき、そして杖に触れようとする。
「……ッ、なんだ……?」
とっさに指が、触りたくないと動かなくなる。
触ればひどい目にあう、なんだかそんな気がする。
そう、いかにも噛みつきそうな犬が、目の前にいるような___
「ど、どうしたんですか?」
「なんか、触っちゃヤバいな、そんな感じがしてね……。
ところで、君自身は何か変わったところはないかい?
調子が悪くなったとか、急におなかが減りだすとか……?」
「うーん、なんでしょう、むしろ絶好調な感じですね。
歩き疲れていたのが、全部吹き飛んだ感じがします。」
「おー……? ちょっと向こうの野原に向けて魔法放てるか?」
「うぇっ!? って言われても、私魔法使ったことないですし……!」
「大丈夫、呪文とか必要ないんだその杖は。
出したい魔法を念じながら杖を構えれば勝手に出てくる。
そうだなぁ、まずは火をイメージしながらやってみてくれ。」
「えっと……火を、イメージ……。」
すると彼女の目の前に白い炎の球が浮かび上がる。
炎が赤ではなく白なのは……魔法に慣れていないからか?
「お、おぉー、出せました!」
「それじゃ、その火の玉をあっちに飛ばすんだ。」
「え? あ、はい! えーっと、飛んでけーっ!」
彼女が杖を振ると、火球はまっすぐ、勢いよく飛んでいき、
近くの野原に着弾することなく地平線の彼方に消えていった。
「……すごい、私、魔法を使っちゃいました!」
彼女は嬉しそうに目を輝かせて杖をぶんぶんと振り回している。
魔法が初めてな割に、かなり手慣れているように見えた。
火の玉もすぐに生み出し、飛距離もかなり出したが、
初めての魔法となると、だいぶ苦労するはずなのだが……。
「なぁ、もしかして親が魔法使いだったりするのか?」
「いえ! まったく魔法とは無縁の!
むしろ魔法を使いたいと思ってた側なのです!」
「お、おう、まぁよかったね、魔法が使えて。」
「はい! ありがとうございます!」
杖を握りしめ、素敵な笑みを浮かべる彼女。
そしてその直後に大爆発が起きた。
「___は?」
私はすぐさま、爆発が起きた方を向ける。
大きな煙がのぼり、オレンジ色の炎がよく見える。
爆発と言うよりかは火山の噴火のような威力。
目の前で起きた衝撃的な出来事に目を奪われていると、
爆発による煙がすぐそこまで来ていた。
まずい、あれに直で巻き込まれたら体が火傷しかねない。
「早く魔法を! とにかくどこか安全なところに移動するんだ!!」
「あっ、は、はい! どこか安全なところッ!!!」
とっさに杖を持つ彼女に指示をしたら、彼女は消えた。
……。
っちょまて、まさかアイツだけ安全なところにいどうし______