表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

森の不気味なキノコのヒミツ。




「お客さん、素手で触ると手がヒリヒリしますよ!?」


最近のお店は、毒キノコを目玉商品として置くらしい。


「ああ、触るとヤバいんですねコレ。

 なんで普通に置いてるんです? 下手すりゃ子供が触りますよコレ?」


キノコがおかれている台のそばには、

『村の名産! 薬の素材に最適!』『魔力の回復に超最適!』

など貼られているのだが、肝心の注意書きが見当たらない。なぜ。


「来る旅人さんのほとんどが薬剤師の方ばかりでして。

 そのキノコがとても良い薬になると言って、みなさん買われていくんですよ。

 まぁ、子供に関わらず大人もそのまま触ればヒリヒリしてしまうんですけどね。」


「興味本位で触る無知にも効く良い薬ってか。」


「お客さん気をつけてくださいよ?

 触る場所によっては命に危険にかかわるんですから。」


「なおさら普通に置いちゃダメだろ!?」


買うつもりでガッツリ触りかけたが危なかった。

というか、命を危険にさらすキノコを買ってく薬剤師が怖い。

良い薬って、要は『簡単に人を始末できる薬が作れるぜ☆』

とかじゃないよね? ちゃんと調理すれば良い物ができるんだよね?


「安心してください。ちゃんと調合されたものもありますから。

 ……ちょっと待っててください。商品の見本を持ってきますので。」


会釈しながらそう言って、店の男は奥に入って行った。

調合された薬の見本の中にヤバい薬が入っていたらどうしよう。

『飲んでみますか?』って言われて勧められたらどうしよう。

いろいろ不安になってこっそり店から出ようとした。


が、すぐに出口が来店してきた人間にふさがれてしまった。


「邪魔だ、どけ。」


口の悪い人間は強く私を押しのけた。

とっさには対応できずに尻もちをつき、腰を痛める。


「おい! 誰かいないのか!!」

「旦那、アレが例のキノコですぜ。」

「ウワサ通り売れてるみてぇじゃねぇかヘッヘッヘッヘ」


ぞろぞろと入ってくる悪そうな人間たち。

どいつもこいつも目の前のキノコに興味を示し目を輝かせている。


「すみません、見本の薬が腐っ……。」


「あんたがこの店の主人か?

 このキノコどこで手に入れたんだァ? 教えてくれよォ?」


「……なんなんですか貴方たちは。」


「なぁに俺たちゃこのキノコが安全かどうかを確かめるためにやってきたんだ。

 ちゃんとした場所で育っているかどうかを知らなくちゃならねぇんでねェ?」

「そうだぜアンタァ? 出回るもんにはちゃんとしたもんじゃなきゃなァ?

 もし言えねェってんなら、危険なモン売ってるってことで燃やすぞコラァ?」


安全管理をするやつが、こんな危険な奴らあってたまるか。

コイツらはおそらく、キノコの栽培場所を聞いて根こそぎとるつもりだ。

格好が今から山菜採ってきますと言わんとばかりで、カマも持っている。


「……なるほど、それなら仕方ありません。

 場所をお伝えしますのでついて来てください。」


店の男は硬い表情をしながら、

特に支度もなくカウンターを離れて外に出ようとする。

そんなに簡単に教えていいものかと呆然としていると、


「よければ、あなたも来てください。

 証人が増えれば安全なことも分かるはずです。」


私に目線を合わせるように屈み、そう口にした。

怪しい男どもは鼻で笑い、店主について行くように出ていった。


「……う、うん? 肝が据わりすぎてないかい……?」


私はスッと立ち上がり、出ていった彼らの後を追う。

外を出れば目の前に荷馬車があったが、視線を感じるのに誰の姿も見えない。

どこに行ったかと辺りを見回そうとすると、


「おい! 待て! に、逃げるつもりか!!!」


店主は全速力で道を駆け抜け、森の方に入って行くのが見えた。

それを追う怪しい男どもは、荷物が重いせいなのか少し足が遅い。

苦しそうに走るのを眺めているうちに、彼らも森に入って行く。


「……ちょっと仕返しに行こ。」


アイツらに突き飛ばされた腰の痛みをふと思い出し、

走り続けて疲弊しきった中で魔法をブチかましてやろうと考え、

私はコソコソと、疲れない程度に小走りで森の中に入った。


「待て! コラァ! 案内するってんなら歩けェ!!」


大声で叫ぶ彼らの前には、店主の姿がしっかりと見えていた。

このまま店主が走り続ければ、森林に紛れて逃げることもできるだろう。


「遅いですよ! この先ですからしっかりついて来てください!!」


だが店主は、わざわざ後ろを向いて彼らを煽る。

肝が据わるどころかこの状況を楽しんでいるようにも見える中、

追いかける彼らはもはや怒りの表情しか浮かんでいない。

殺意も抱き始めているのかキノコを狩るためのカマを構え始める。

もはや、キノコなんぞより店主の首を狩ろうとしていた。


「……ん? あ、あれ……?」


隠れながら進んでいた私は、目の前の景色を見て立ち止まる。

なおかつ、店主がなぜここまで走ってきたかも理解する。


「つきましたよ! ここでキノコを栽培してるんです!」


「どこにさっきのキノコがあるってんだ! 

 何も生えてねぇじゃねぇかごまかしやがって!」


「あたりまえですよ! 

 すごいキノコが地面に生えているわけないじゃないですか!」


店主にしか目になかった彼らは、

キノコの話題になってすぐに目を周囲に向け始めた。

そして、上にあったものを見て、頭の中にバグが生じさせた。


「……なんだありゃぁ……」


タコがいた。とにかくバカでかい大きなタコ。

猿が木の枝にしっぽを絡ませてぶらさがるように、

たくさんの触手を枝に絡ませて器用に森の上を徘徊している。

遠くで見ていた私は、オレンジの大きな目で睨むタコの姿、

たくさんの吸盤……ではなくキノコが張り付いていることを確認。

見たことのない生物にテンションが上がり、

カバンからカメラを取り出しては写真をパシャリ。


「そこのお客さーん! 離れた方がいいですよー!!!

 もしかしたら勘違いして食べられちゃうかもしれないのでー!」


そんな店主の声が聞こえて来た。

おそらく私に向けて発したものだろうしかし、

今から店主がしようとするのは非人道的行為であるがため、

素直に離れようなどするわけがない。


「キュァアイ!」


タコの鳴き声?が聞こえたと思えば、

木々に絡まっていた触手の一本が素早く彼らに向かう。

しかし、見えないバリアにぶつかり触手はおおきく右に逸れる。

次に2本3本と彼らに襲うもそれらもすべてあらぬ方向に逸れていく。


「ひ、ひぃぃぃぃ!!!!」


無事な場所にいるとはいえ未知の生物の攻撃に恐怖する彼ら。

自分が無事であるかどうかなどはさておき頭を抱えてしゃがんでいる。

店主は真顔でその光景を見つめているが、

さぞ私が即座の判断でバリアを張ったとは思うまい。


「なぜですか! この人たちは悪い人なんですよ!!?」


と思ったらすぐに私の方に顔を向けて声を出してきた。


「悪い人でも教育すれば荷物持ってくれるヤツになりますし。

 あいにく私は旅の人間なんでね、自分ルールで進んでるんだ。

 コイツらの処遇は私に任せて、餌やりをやめさせてくれないか?」


「嫌ですよ! 食べさせないとキノコがよく育たないんですから!

 モリモリダコ! あそこにいる人もぱくって食べちゃっていいから!」


店主がそう言うとタコの目がギロっと私の方を向いた。

私はすぐに自分にもバリアを張ろうと杖を……構えたのだが、

背後から近づいてくるもう一本の触手に気が付かなかった。


「ひぃ! めっちゃぬるぬるするっ……!」


触手に絡めとられ身動きが取れなくなる。

それどころか体の動きが鈍く感じる。首もよく動かない。

おそらく触手に生えているキノコのせいでマヒしているのだろう。


「うわぁあっぁあ!!!!」


男の悲鳴が聞こえたと思えば、

キノコ狩りの男どもも触手に捕まっていた。

かなり頑丈なバリアなハズなのに簡単に破られている……。

触手に魔力を吸収する力もあるのだろうか……?

なんて考えていたら、目の前にはタコの口が広がっていた。

まずい。このままじゃパクって食べられてしまう。

旅の終わりが森のタコさんに食べられて終わるとか恰好がつかない。

せめて海のクラーケンだよ船の上で戦って食べられるとかだよ。

隙を突かれて捕まって、

ひょいッとスナックみたいに食べられるとかやだよっ!

どうにかしないとっ、どうにかしなきゃいけないっ。

食べられそうになる寸前にひたすら頭を回転させる。

なにかできないか、なにかつかえるものはないか。

必死に考えているうちに、自分の足りないものに気づいた。

妙に感触が違う。背中がそんなに固くない。アレを使えば___


「カバンアタック、ドリルファイア”ー!!!」


大きく森に響くように叫ぶと、

地面に忘れてきたカバンが炎をまといながら超回転。

勢いよく飛び上がり、私を絡ませていた触手を貫いた。


「キュウルゥアアアア!」


タコの悲鳴が聞こえたと同時に、

身体がマヒした状態のまま、私は地面に落下する。

幸いにも落ち葉がクッションになって痛みは少なかったが、

後から落ちて来た杖を頭にぶつけてしまった。いたい。

カバンはそのまま他の職種も貫き、捕まっていた彼らを救う。


「ああ! モリモリダコぉ! なんてことするんですか!」


「あたりまえだろ食べられかけたんだぞ!!!!!」


命の危機から脱した直後に聞こえた店主の言葉に私はキレた。

おそらく人を散々あのタコに食べさせ続けてキノコを栽培して、

食べさせ栽培させを繰り返して命の大事さを見失っているのだろう。

しかも人の命で成長したキノコを売って金にして……許さん……!


「カバンアタック、ゲットイン!」


宙を舞うカバンに向けて叫ぶと、

回転をやめると同時に炎が消え、店主の方へ飛来。

カバンのチャックがジジジと開き、店主の頭に被さった。

すると店主の体が徐々に小さくなり、カバンにゆっくり吸い込まれていく。

そのとき、森の上にいたタコが、吸い込まれていく店主に触手を絡ませる。

自分の主人である店主を助けようとしているのか、

引きずり込まれていく彼を引っ張ろうと、

大きな体をのけぞりながら、触手をピーンと伸ばしている。

だが、店主の体が完全にカバンに入った瞬間、

今度はタコの触手から徐々に小さくなっていき、引きずり込まれていく。


「キュイ! キュゥゥゥ……!」


木や枝に絡まってこらえようとするが、メキメキと折れていく。

あらゆる方向に触手を伸ばそうとするも、なにも捕まるものがなく、

タコは落下しながらカバンにぬるんと吸い込まれていった。

カバンの閉まる音が聞こえたと思えば、森は静寂を取り戻す。


「……あー、疲れた。」


事が終わって一息。

さて、私はもう動けそうにない。杖も手に届かない。

カバンに指示を出そうとしけど、もう声を出すのが面倒になった。

キノコのマヒをどうにかしようと思ったけど、その前に眠くなった。

そしてそのまま……私は目をつぶった。



……。



……うーん、うーん……。

饅頭……おいしい……もちもち……。

いちご……だいふくぅ……。


「おら、かわいい寝言。」


「ひぃやっほぅ!!!???」


耳に聞こえた老母の声で、私は飛び起きた。


「ああ、ごめんねぇ、起こすつもりはなかったんだけどねぇ。」


「え、え、あ、あの……寝言、って……あれ……???」


気づけば私は布団の上で、どこかの小屋の中にいた。

目の前には笑顔の老母が座っており、近くにはタオルと小瓶がある。

タコの粘液まみれだった服も、柄が濃い寝巻に変わっている。

どうやらこの人は、私のことを看病してくれていたみたいだ。


「ありがとぅ。あなたのおかげで、この村はなんとかなったよ。」


「へっ? あー……あー? どういうことです……?」


「あの店にいた男は、あなたが倒した奇妙な生き物を使役して、

 村をさも自分のものかのようにあつかって大変だったんだよぉ?

 言う通りにしなければエサにするぞと、脅してきてもう怖かったぁ。」


「あー……それは……大変だったね……。

 でももう大丈夫。男もあのタコも倒したからね。」


「ありがとねぇこんな、へんぴな村を……!」


「いやいやこちらこそ、看病してくれてありがとうございます!」


嬉しそうな老母に笑みを向けて布団から立ち上がり、

軽くストレッチをしながら小屋の中を見回すと、

玄関の近くには、きれいになった自分の服がたたまれており、

持っていた杖とヌルヌルのカバンが置かれていた。

ちゃんと荷物も回収してくれているみたいで安心した。あとは___


「そういえば、私のほかにも男どもがいたはずですけど、

 その人はどこにいるんです? ちょっとモノ申したいことがあって。」


「そのことなんだけどねぇ……、

 昨日目覚めたとおもえば馬車でどこかにいっちゃたのよ……。」


あんにゃろう共め、助けた恩も返しにこずに逃げやがった。

顔は覚えた。今度あったらにこやかに返礼の品を求めよう。

なにもくれなかったらバンジージャンプさせてやる覚悟してろ。


「……あー、それじゃぁ、私は旅をしなければならないので……」


私はスタスタと布団から歩きながら服を脱ぎ、

たたまれていた服を広げてスピーディーに着替え荷物を背負う。

杖を振るって布の服を魔法で綺麗に洗浄し綺麗にたたむ。


「え、で、でも、まだ休んでいった方がいいんじゃないかい?」


「あいにく休もうとすると、そのまま堕落しちゃう体質でしてね。

 下手をすれば村に住んで、店主より迷惑を掛けかねないかもですし。」


「そ、そうなんだねぇ、そんなら、旅、頑張ってね! 」


複雑そうな表情をしながらも頬をあげて見送る老母に、

私は笑顔で手を振り、玄関の扉を開けて外を歩きだす。


「あ、そうだ!まだ名前を聞いてないんだけど、なんて言うんだい?」


「……私の名前? ああえっと……」


私はカバンを……まず杖で洗浄してから、手帳を取り出す。

パラパラとページをめくり、リストからそれっぽい名前を探す。


「私の名前は……あー、ハイカ・ラデスかな。」


「ハイカちゃん、また気が向いたら遊びに来てね!」


「ああ、また旅の道がここに向いたら、会いに行くよ。」


再び手を振りながらも玄関の扉を閉め、手帳をカバンにしまう。

タコが出て来たから、対となるイカが入る名前を選んだのだが、

当然ながら私はそんなハイカラな名前などではない。


私の、真の名は________







         ________まだちょっと教えられません。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ