アスター:変化
広い学校、寮までの距離は結構長い。いつも通り並んで歩く。ちょっとだけ上にあるひなちゃんの視線が、なんとなく私を向いているような。横を見上げてみると、目が合う。
……今もまだ、ひなちゃんのかおりがする気がする。これまでもずっとそこにあったはずなのに、意識してなかった。一緒にいる時間が長すぎてそれがあるのが当たり前で、……あのとき、強く感じなかったら、たぶん、今だって変わんなかったのに。
「ひなちゃん、私の顔、なんか付いてた?」
「え、っと、そうじゃなくて、……部屋戻ったら、話するね」
そういうの、やっぱりすぐ気づかれちゃってるみたいで。でも、ため込みがちなはずなのに、心配そうな顔してる。そんなに変だったかな。それとも、私だからかな、……なんて。私には、甘えていいんだよ。何の気なしに言ったわけじゃないけど、思ったよりも、深く刺さってるみたい。
「私、そんなに変だったかな」
「……うん、なんか、ぼうっとしてたよ?」
そういうことも、なんとなくごまかしてたのに。ちょっとずつ、私には本当の気持ちを伝えてくれてる……のかな。二人だけだから、なのかもしれないけれど。
「……それは、そうかも」
「そうだよね、……大丈夫?」
「うーん、どっちかでいうなら、ちょっと大丈夫じゃないかも」
「わたしでいいなら、話聞くよ?」
そうだよね、ひなちゃんなら、そういうと思ってた。言う相手なら、ひなちゃんが一番いいけど、……言わなきゃなのはわかってるけど、……今は、言えそうにないや。私、たぶん、ひなちゃんに恋してる。そんなこと、急に言われても、困るよね。
「……ありがと、言えるようになったら言うね」
「わかった、……いつでもいいよ」
「うん、わかったよ」
何にも気にならなかった距離が、今日は不思議と気になって。寮までの距離が、いつもより長く感じて。もう夏だけど、それ以上に体の奥が熱くて、……マンガとか小説とかでしか知らなかった気持ち、私の小さい体には、大きくて重すぎる。
ようやく、部屋に着く。何も言わないでも、私が電気をつけて、ひなちゃんがエアコンをつけて、クローゼットから部屋着を出して、……昨日の夜が夢じゃないって証は、私の胸の中のドキドキだけ。
部屋着に着替える音、背中越しに感じる。全部、いつも通り。私の気持ち以外は。本当に、夢だったらよかったな。そしたら、何も変わらない毎日が、何もないまま過ぎてくだけなのに。
「ねえ、隣、いい?」
「うん、……さっき言ってたこと、だよね」
「お茶飲むけど、ひなちゃんもいる?」
「じゃあ、そうしよっかな」
わかってるよ、本当は、全部。私のこと、心配してくれてることも、なんとなく、ひなちゃんが気づいてることも、……喉が渇くの、暑いせいじゃないのも。