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イチゴ:甘い香り

 ……ひなちゃんのかおり、気がついたら、探しちゃう。隣にいると、不意に感じちゃう。あのかおりが無かったら、いつも通りでいれてるはず。私がおかしくなってるの、気づかないでいてくれたらいいのに。私の自慢の鼻が効くこと、今だけは好きになれない。


「ねぇ、図書室行くつもりなんだけど、清美ちゃんはどうする?」

「あぁ……うん、私も新しいの借りたいから行こうかな」


 ふと、そのかおりがしたと思ったら、目の前にひなちゃんの顔が見える。うっすらした笑顔、いつも通りでいてくれるの、今日だけは、なんか違和感しかない。あっという間に過ぎてった放課後、何をしてたかも、思い出せないや。

 ……二人きりに、なっちゃうんだよね。土日になっちゃうから、次の月曜まで。いつもだったら嬉しいのに、今日は、なんか素直に喜べない。二人の部屋になんて戻ったら、どうしたってかおってきちゃう。甘くて、優しい香り。

 その前に、本のかおりで落ち着こう。木の優しい香りで、甘いような酸っぱいような、いろいろなものを受け止めたような感じ。リュックを背負ったまま、入り口のとこで分かれる。

 

「じゃあ、借り終わったらここでね」

「うん、分かってる」

 

 気兼ねしないでって意味なんだろうけど、小説だと結構おんなじの見るから、被っちゃうんだよね。

 何、借りようかな。借りてる本は読み切ったし、同じ作家さんの本にして。もう一冊は、……どうしようかな。落ち着きたいときのかおりって、何だったかな。そんなので落ち着けるとは思えないけど、ほんのちょっとでも。アロマテラピーの本って、どこだったかな。いつもみる園芸のとこには入ってなくて、広い図書室をさまよう。それだったら、先に小説のほうに読んでおいたほうがよかったかな。行先は、たぶん被っちゃってたけど。

 しばらくさまよって、……ああ、そうだった。薬草とかと一緒だったから、医学とかのほうに近かったんだった。分厚くて、けっこう書かれてそうなのを手にとって、それから、少女小説のほうに向かう。ひなちゃんは、もう入口のとこで待ってるみたい。

 いつもみたいに、恋愛ものを借りる照れくささをごまかすために、そっちじゃないほうを上にして図書委員さんに渡して、手続きを済ませると、走らないようにって注意されないぎりぎりの速さで入口まで向かう。


「ごめん、お待たせ」

「いいよ、じゃ、帰ろっか」


 並んで歩くと、ひなちゃんのほうが、ちょっと背が高い。そういうことだけで嬉しいけど、……もうちょっと、近づいてみたい。なんて、甘酸っぱい気持ちが、胸にせり上がってくる。

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