ワサビ:目覚め
カーテンのすき間から刺す光がまぶしくて、目が覚める。今、何時だっけ。どこかにあるかなって見回してみても、何もない。
「あれ、もう……?」
ちょうどいいとこに、普段と同じ七時半のアラームが耳に刺さる。寝着いてからは、私もひなちゃんみたいにぐっすりだったみたい。胸に頭をうずめるみたいにして、寝る前と、あんまり変わんない。どこまで夢なのかも、分かんなくなっちゃいそう。
あの時と同じかおり、今のひなちゃんからしたら、あれも夢じゃないよね。確かめさせて、……もうちょっとだけ、寝ててよ。
もう一回、頭に顔を寄せて、深く息をする。……甘いかおり、あの時とおんなじ。……あの時感じた『すき』の熱も、そのまま。違うのは、少し、汗のしょっぱいようなかおりも混じって、頭の奥のほう、じんわりするっていうか、しびれるっていうか。
「……ひなちゃん、もう朝だよ」
半分は私にかけた言葉、これ以上いると、お布団の中から出られなくなっちゃう。この季節なら、暑くてすぐ出ちゃうはずなのに。出たくなくなっちゃってるせいで、余計に。……ねぇ、このままじゃ、二人ともおサボりになっちゃうのに。背中、またぽんぽんとしてみる。ぴく、って体が動いて、逆にほっとする。
「ん、……ぅ」
「ほら、……もう、起きないと遅刻しちゃうよ」
見上げてくる視線を感じて、手を止める。まだ眠たげなとこも、初めて見たかも。……恋してること、自覚してから、そんな小さなことも意識しちゃう。
「きよみちゃん……?」
「……おはよ、ひなちゃん」
「うん……、おはよ……」
仰向けにさせて、そのまま体を起こそうとしてみる。ぎゅっとしたままの体は、そのまま持ちあがってくれる。よかった。起きてくれて。そうじゃなかったら、二度寝しちゃおうなんて思っちゃってたかもしれないし。
「今日は、ぐっすりだったね、いつも目覚まし鳴る前に起きてるのに」
「うん、ちょっと……」
「私もだからいいよ、……こんなんだと、次の日が休みじゃないとできないね」
「あはは、そうかも……」
でも、嫌じゃなかったんだ。次も、なんとなく期待してるのかな。それとも、まだ夢うつつなのかな。訊ける勇気は、今は持てないや。向き合って座ったまま、もう少しだけ、時間がほしい。
……でも、一個だけ、訊いておかなきゃ。あの言葉、聞かれてたらどうしよう。まだ、ふわりとあくびをして、優しすぎるひなちゃんが、そんなことも考えられない間に。
「私、……不思議な夢見てたんだんだけど、変なこと言ってなかった?」
「ん……ううん、すぐ寝ちゃったし、全然目が覚めなかったんだ」
「そっか、それならよかったぁ」
……まだ、気づかないでいてね。目の前で『すき』って言える勇気までは、まだ持ってないから。昨日のベッドの中のこと、本当に夢だったらよかったな。そしたら、いつもどおりに簡単に戻れそうだから。




