ネムノキ:胸のときめき
豆電球だけにして、暗がりに目が慣れるように、ゆっくりひなちゃんのベッドに戻る。添い寝なんていうのも、私、初めてかも。
「入るよ?」
「ぁ……うん、……」
もう、寝ぼけちゃってる。薄い掛け布団の中、もう、ひなちゃんのぬくもりでほかほかだ。さりげなく、枕も半分空けてくれてる。端っこにちょこんと頭を載せて、私に、さっきみたいに抱き包まれるようにされたいのかな。背中に手を回して、さっきみたいに、ぽんぽんと撫でてあげる。
……そんなに、甘えたいんだね。嬉しい。……何となく憧れてた『とくべつ』と、少しだけ、重なる気持ち。
「今日は、甘えんぼだね」
「ぅ……、そうだね、変だったかな」
「ううん、とってもかわいいよ」
「そう、かな……」
ひなちゃんの体、眠くてほかほかなのに、もうちょっとあったかくなっちゃったように感じる。誰にでも優しくしてばかりじゃ、疲れちゃうよね。……私と二人のときくらい、肩の力を抜いてもいいんじゃないかな。……なんて、そんな簡単に言えるものじゃないや。
「そうだよ、……今日は、もうおやすみしよ?」
「うん、……おやすみなさい」
「おやすみ、ひなちゃん」
背中を撫でる音と、ゆっくりした吐息だけが聴こえる。ひなちゃんの吐息は、すぐにすぅすぅとした寝息に変わる。……そんなに、疲れちゃってたんだね。優しすぎるくらいに優しいのに、自分のことは、その半分も気にしないで。
「……ん、……」
「ひなちゃん……?」
顔、胸にうずめてくる。無意識のことだろうけど、どうしても、髪のかおり、濃く感じる。人のにおいを嗅ぐのは良くないことなんだけど、……ひなちゃん、もう寝てるんだよね。気づかれないように、鼻で深く息をする。……はちみつの香りの中に、ほんのり、ミルクみたいな甘いかおり。落ち着くけど、胸の奥は、なぜか高鳴ってるような。
「まだ、起きてる……?」
寝てるんだよね。私のしちゃってることも、気づいてない……はず。返事は、聞こえない。……大丈夫、だよね。
もう一回、深く息をする。甘くて、落ち着くのに、落ち着かないかおり。それが、体じゅうに入って、私の奥、熱くしてく。
……すき。どうしようもなく単純なのに、頭の中でその言葉が形になった途端に、ふわりとしたドキドキと熱さが、体の中に浮かんでくる。特別なひとなのはなんとなくわかってて、でも、こういう形のものだなんて、思ったこともなくて。
「ひなちゃん、……すき、だよ」
くらっとした頭から、零れ落ちた言葉。他の誰にも聞こえないはずなのに、溜まってた熱が、もっと大きくなる。……ふわふわして、熱いのは、眠気のせいってだけじゃない。