アセビ:献身
お風呂上がりに、ハーブティーでひと休み。もう暑くなってるけど、もう習慣になっちゃってる。普段はお互いに自分ベッドに腰掛けてるけど、今日は、隣にいたい気分になる。
「隣、座っていいかな?」
「いいけど、どうしたの?」
「ん-、……なんとなくかな」
……言葉にしようとすると、もやもやのまま言葉がほぐれなくて、上手く言い表せなくなる。でも、気づいちゃうんだろうな、ひなちゃんって、そういうところ、すぐ気づいちゃうから。優しくて、甘い。ただよう香りとおんなじ。
「……訊いてほしいこととか、あったりするの?わたし、聞くよ?」
「そうだね、……うーん、あるけど、ちょっとうまく言えないや」
「そっか、だったら、いつでも訊くから」
ティーバッグを落として、沸かしておいたお湯を入れる。カモミールの芝生とりんごが混ざった香りがただよう。そういうところなんだよ、心配するところって。いつも他の人ばかり気にして、自分のことはいっつも最後。別に、それがだめってわけじゃないけど、ここでくらいは、そんなの気にしないでよ。訊きたかったこと、ようやく言葉になる。
「……ひなちゃんって、ちゃんと自分のこと大事にできてる?」
ちゃんと、知りたい。でも、こういうの、ちゃんと言ってくれないから。さりげない口ぶりの中に混ぜ込もうとしたけれど、やっぱり、空気は張りつめちゃう。視線をそっち側に寄せると、少し、困ったような顔をする。
「えっと、……どうして、そんなこと訊くの?」
「優しいのは嬉しいけど、他の人のばっかり気にしてちゃってるように見えるから」
「そうかな……、ごめんね、心配させちゃって」
やっぱり、優しすぎるよ。言いそうだったけど、聞きたかった言葉は、そうじゃないよ。もうちょっと、頼ってくれたっていいんだよ。
「そういうところだよ、私が言ってるのは。……もうちょっと、甘えてもいいんだよ、私には」
「嬉しいけど、……そういうの、どうすればいいのかな」
「もう……、じゃあ、普段してあげてるようなこと、私にお願いしてみてよ」
吐き出した言葉、今更重さに気づく。優しいから、変なことは言わない、とは思うけど。それでも、変なことだったらどうしよう。
「……お茶飲み終わるまでに考えるね、こういうこと、言われたことなかったから」
「気が済むまで考えていいよ、私のほうが、無理言っちゃったもん」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」
「分かったよ、……待ってるね」
ローテーブルに目を落とすと、ほどよく色づいたハーブティーが出来上がってる。ティーバッグを袋の上に置いて、ほのか甘い香りと一緒に、熱いお茶をすする。一口すすって、ほっと一息が出てこない。落ち着かないのは、私もみたい。