オシロイバナ:恥じらい
二人のマグカップに麦茶を注いで、ローテーブルに置いてあげる。昨日の夜と、同じくらいの距離。あのときと同じ、甘いかおり。でも、そのときみたいに、ちゃんと目線を合わせられない。
「はい、……その、どうかした?」
「ありがと、……今日の清美ちゃん、なんかふわふわしてたから、どうしたのかなって」
「やっぱ、気づいちゃうか、ひなちゃん、こういうとこ鋭いし」
私でも気づくくらいに変になってたから、鋭いからとか、そういうのでもないと思うけど。想像したよりずっと、熱くなってた気持ち。もう、その気持ちの名前も、気づいてるのかな。あの時こぼれた言葉、訊かれてなくても。
「私、そんなこと思ったこともないんだけど……」
「えー?……ひなちゃん、すぐいろんなこと気づくし」
「そうかな?……わたし、そういうふうに考えたことなかったな」
細かいこととか、考えてることとか、すっごく気づくの、素敵なことだと思うんだけどな。私が香りに気が付きやすいのより、ずっとずっと優しい。私だったら、耐えられないかもしれないくらい。
「そうだよ。ひなちゃんが優しい理由も、わかっちゃうな」
「そんなこと、……わたし、取り柄とかないし、みんなに優しくしなきゃ、見捨てられちゃうからってだけだよ」
そんなこと、あるわけないのに。言わないでよ、そんな風に。私がどれだけ、一緒にいると思ってるの?……分かっちゃうよ、ひなちゃんも知らない、ひなちゃんのこと。
言葉じゃ、上手く言えないよ。その代わりに、体、ぎゅってしてみる。私のほうが背が低いから、胸に顔をうずめるみたいになっちゃう。この前とは反対だけど、……分かってよ。言葉にしようとすると、まだもやもやするけど。
「ねえ、ひなちゃん」
「……清美ちゃん?」
「私は、そんな風には思わないな」
「……え?」
何もないなんて言わないで、知らなかったこと、いっぱい教えてもらったのに。花言葉とか、歌とかドラマとか、……胸の中で育った恋心とか。
「私、ひなちゃんにいろんなこと教えてもらったよ、好きなことなのに、たぶんひなちゃんがいないと気づかないでいたこと」
「そう、かな」
「そうだよ、……だから、ひなちゃんが何もないなんていうの、ちょっと寂しいし、イヤだな」
「……どうして、そんなに優しいの?」
声、震えてる。私、優しくなんてないよ。……もし、そうだとしたって、ひなちゃんにしかできないよ。昨日のことなんて、他の誰かにしたいなんて思えないし、……人のかおりでドキドキしたのも、あの時が初めて。顔、見れないや。言おうとしたって、ほっぺ、熱いから、きっと、真っ赤になっちゃってる。
「……好きだよ、ひなちゃん」
「……え?」
「……私、たぶん、……ひなちゃんに、恋してる。……これ以上のこと、言いたいのに、言えないよ、だって、熱すぎるもん」
どんな顔、してるかな。少し上にあるひなちゃんの顔、まっすぐも向けられないのに見れるわけないよ。




