フジ:優しさ
「ねえ、何読んでたの?」
「これだよ、なんかあった?」
「あ、これ清美ちゃんも好きなんだ、……読んでるとこ、楽しそうだなって」
ちょうど本を読み終わったとこに、控えめな声がかかる。私の勉強机を覗き込むみたいにして、読んでた本を指さしてくる。そっちを見上げると、目線の先に浮かべた笑顔が見えて、……ほんのちょっとだけ、ちゃんと笑えてないような感じがする。
「変だったかな、普通にしてたつもりなんだけど」
「楽しそうに体揺らしてたし、鼻歌まで歌ってたよ。そんな面白かったんだね」
「そうだった?ごめん、うるさくしちゃってたよね」
そんなになるくらいだったっけ、体が揺れるのはなんとなくあったかもって思うけど、鼻歌までってなると、ちょっと信じられないかも。……私、ずっとそんな感じだったかな。
「う、……ううん、全然大丈夫だよ、音楽聴いてたし」
「ごめんね、気使わせちゃって。……何聴いてたの?」
「あ、この前、CD買ったって言ったでしょ?あれ、スマホに入れてたんだ」
ひなちゃんって、こういうとこがいつも優しい。同学年で、部活もおんなじで、雰囲気もふんわりしてて、それにぴったりな、蜂蜜を入れたホットミルクみたいな香りがする。でも、どこか、背伸びっていうか、無理しちゃってるような感じは心配になる。どこかがひきつったような笑顔とか、ちょっとだけ、沈んだような声とか。……今日だって。
ヘッドフォンを首にかけてて、声を塞ごうとしてて。気にしてたなら、言ってくれたらいいのに。そんなので、別に怒ったりしないんだから。
「それにしても、ひなちゃんも同じの好きだったんだね、なんか嬉しいよ」
「それ、今度ドラマになるんだって」
「ドラマかぁ、私はあんまり見ないけど、ちょっと気になるな……、一緒に観ない?」
「うん、夏休み終わってからだけど、今から楽しみだよ」
私にとっては、一緒にいると、楽しいし落ち着くし、ルームメイトでよかったって本気で言えるような人。……じゃあ、ひなちゃんにとっての私は、どうなのかな。仲はいい、とは思ってるんだけど、優しいから、悪いことは言ってくれない。そんなことずっと考えてると、ひなちゃんって勘がいいから、考え事とかしてるとすぐ気づいちゃうし。
いつも二人で飲んでるハーブティー、リラックスできる効果もあるって書いてたんだけどな。私も今日はたっぷり淹れておかないとかな。
「そろそろ、お風呂だね、今のうちにお湯沸かしておかないと」
「わたしが入れてくるから、先準備してていいよ」
「わかった、ありがとね」
いつも通り、一緒にお風呂の準備。……ほぐれてくれたらいいな、私も、ひなちゃんも。電気ケトルにお水を入れてくれてるとこを横目で見ながら、お風呂セットと寝間着をクローゼットから出していく。