飛竜便の価値
次の日は、王都の東にある王国第ニの都市ウェナに向かった。
ウェナは海に面した港湾都市で、先生のファンは海外にも広がっているので、ここから他国に向かう船にも載せるのだ。
ウェナだけで収納の中にある全ての本を降ろすので、今日は昼までで仕事が終わる予定だった。
発着場に着いた私が取次会社に本を下ろすと、社屋に来て欲しいと言われた。
代金をもらわなくてはならないので、担当者に付いて社屋の応接間に入ると、社長と呼ばれる横幅がかなり大きい男性が現れた。
「えっ、飛竜便の会社ですか?」
「そうだ。今回飛竜に載せて本を運ぶという試みを見せてもらったが、この飛竜便をうちの社で扱ってやろうと言ってるんだよ。
今回は王都からウェナまでだったが、ウェナから他の都市に送りたい荷物もあるからな。
飛竜便ではあまり荷物を大量に運べないと思っていたら、本3000冊送れるって言うじゃないか。
往復で荷物を運べばぐっと効率的に高速で運送ができるわけだ。
馬車で運ぶより割高でも早く運びたい奴は飛びつくように使うだろう。
どうかな?私と組んでみないか?」
取次会社の社長は椅子から身を乗り出して話してきた。
「待ってください。飛竜で荷物を運ぶ事に関しては、飛竜を持つ[空の民]の方との打ち合わせも必要ですし、私は本なら3000冊収納できますが、他の荷物は収納できません。
入れる荷物が限られるんです。往復で運べば良いと言われますが、それは私の一存では決められません」
「そういえば君はまだ未成年だったな。
じゃあ、お父君のマーキュリー男爵に話を通せば良いか?
君と話すより、そっちの方が話を通すのが早そうだな。ではそちらに話を持って行こう」
社長は、もう飛竜便は自社が扱えるものと思い込んでいるようで、ジェンナの話を聞いてくれそうになかった。
そして社長が父に話を持って行くとどうなるか、ジェンナは簡単に想像できた。
この国では女性の立場は弱い。女で未成年の場合、親の監督下にあるものとされ、権利なんて無いような物だった。
今は家賃や生活費を払うという名目で、ジェンナが働いた給料は成人するまで先生が積み立ててくれている。
しかし、この社長が言う会社で働いて得たお金は、全部父の懐に入るだろう。
そのお金でまた父は投資に走り、母はドレスや装飾品を買いまくる。
そしてまたお金をあるだけ全部使ってしまうのだ。
ジェンナは真っ青になった。父の所に話を持って行かれたら終わりだ。
絶対にこの話は阻止しなければならない。
「この話に関しては、私に決定権はありません!
リジス・ブレナン先生を通していただけますか?
[空の民]の代表者の方と弁護士さんとの話し合いも必要です」
私は言質を与えないよう、その話をそこまでで終わらせて、飛竜に乗って大急ぎで王都に帰った。
そして帰ってすぐに先生にその件を相談した。
「まあ、あの社長、そんな事を企んでいるの!飛竜は大量輸送に使えるほど数がいないし、デリケートな動物だから、慣れた人しか扱えないのよ。馬車とは訳が違うんだから!それにマーキュリー男爵に話をしたら、女の子に学問は必要無いなんて言う男爵ですもの。あなたが働いた給料は親である自分のものだって言いかねないわよ!」
先生は社長の言い分に腹を立てて言った。
私は自分が感じた不安を先生も感じてくれた事に安堵した。
やっぱり、うちの親は誰から見てもおかしかったのだ。
「ジェンナさん、この件は私に預からせてちょうだい。横から出てきて美味しいところだけ持っていこうなんて、そうは問屋がおろさないわよ。弁護士とも相談して、あなたの不利にならないようにしますからね。任せてちょうだい!」
私は「よろしくお願いします」と言って部屋に戻ったのだった。