街から街へ
その日はとても晴れて気持ちの良い日だった。
スピードの速い青飛竜は、空の彼方に豆粒のように現れたと思ったらグングンその姿が大きくなってきてて、王都の離発着場にフワリと舞い降りた。
そして飛竜の背中から男の子が飛び降りてきた。
青空の色を映しとったような青色の髪の、爽やかっこいい少年だった。
「時間通りね。シャーラン君。初めまして、私が今回の仕事の依頼主のリジス・ブレナンよ。こちらが貴方の相棒になるジェンナ・マーキュリーさんよ」
と言って二人が握手したので私も慌てて「ジェンナです。よろしく」と挨拶した。
「作家先生、青飛竜に女の子1人乗せて採算がとれるんですか?青飛竜を1日借りるだけで50万ゴールドかかるんですけど?」
ブスっとした顔つきで私をにらみながら聞いてくるシャーラン少年は、荷物が私1人と聞いて不満に思っていたようだ。
「そうね。女の子1人乗せるなら採算割れね。
だけどジェンナさんの空間収納には、今私の新刊本が3000冊入っているんだけど、見た目わかるかしら?」
「えっ3000冊!この子がそんなに持ってるって言うのかよ!もしかしてその子、牛より重い?」
「牛……」私はもう涙目である。
しかもシャーラン少年は、私のどこに本が隠されているのかと興味深そうに私の全身を眺め回してきた。
「シャーラン君!女性をそんなに無遠慮に見ないの!
ジェンナさんの空間に入ってる限り、重さは女の子1人分しか無いわ!15才の女の子と牛の重さと比べないでちょうだい!
先生は私の頭をよしよしと撫でながら、シャーラン少年を叱ってくれた。
「あなた達、これから長い付き合いになるのだから、仲良くしてちょうだいね。シャーラン君はもっと女性に優しくしないとね」
シャーラン少年は、ムッとした顔で黙った。
「これが今日回る飛行地図よ。街に8ヶ所。村に2ヶ所。貴族のお屋敷に5ヶ所。
休憩は都合の良い時間に取ってちょうだいね」
先生はそう言うと、持っていたお弁当が入ったバスケットをシャーラン君の方へ押しつけた。
「おまえ、高い所大丈夫なんだろうな?キャーキャー騒いだり泣いたりしたら飛竜が嫌がるからな。大人しく座っててくれよ!」
「私は騒いだり泣いたりしないわ!失礼ね!」
どうもシャーラン少年は私に不満があるようだ。
何かと突っかかってくる。
「じゃあモタモタしないですぐ行くぞ!」と言って私を青飛竜の背中に取り付けてある器具に座らせ、ベルトを締めた。
「くれぐれも気をつけてちょうだいね。優しく安全運転でお願いするわ!」
「わかってるよ」と言って、シャーラン少年は飛竜の手綱を引くと空に舞い上がった。
「ひぇ〜」と私は小さく情け無い声を出してしまって慌てて口を押さえた。また文句を言われたら敵わない。
それも僅かな時間だった。すぐ安定した飛行になり私は真下に広がる王都を見つめ「きれい…」と言う言葉が自然に出ていた。
「きれいだろう?こうやって飛竜に乗って見る景色は最高なんだ!」
さっきと打って変わって本当に嬉しそうに言うシャーラン少年に私も頷いたのだった。
「この飛行地図によると、今日は王都から北回りで街を巡って行くからな。今日は天気も良さそうだから夕方には王都に着けるだろう。風は飛竜が防風膜で防いでいるから寒くないと思うけど、何かあったら言ってくれ」
「わかったわ。私の事はジェンナと呼んでね」
そうして私達は地図の通りに飛ぶと、街に着いては本を下ろし、また飛びと順調に仕事を進めていった。
飛竜がシャンネル公爵領に入って、公爵家の本邸に飛竜が降りると、公爵邸からたくさんの人が現れた。
「まあ、本当に飛竜で本を届けに来てくれたのね」
人々が並んでいた場所から、30代に見える美しい公爵夫人が現れ、ジェンナ達を歓迎してくれた。
ジェンナは、収納空間からリジス・ブレナン先生が書いた最新作の小説を取り出すと、公爵夫人のお付きの侍女に手渡した。
「リジス・ブレナンの最新作が発売日に自宅に届くなんて何て素晴らしいのかしら!
今まで王都にいない時は、ここに馬車で届くのを今日は来るか今日は来るかと首を長くして待っていたのよ。
1ヶ月近く待った事もあったというのに、なんて素晴らしい事なの!
あなた達には本当に感謝しているわ!」
シャンネル公爵夫人は、嬉しさのあまり私を抱きしめて感謝を伝えた。
そしてお礼だと言って、本代の他に多額のお小遣いと美味しそうなチェリーパイをお土産に持たせてくれたのだった。
お昼ごはんは、配達途中の丘の花畑で食べた。
バスケットに入っていたライ麦パンのサンドイッチにはスモークサーモンと玉ねぎが挟んであるのと、ゆで卵とハムが挟んである2種類があって、シャーラン君も私も夢中になって食べた。
シャンネル公爵夫人が持たせてくれたチェリーパイも甘酸っぱいチェリーがふんだんに入っていて最高に美味しかった。
「この仕事、美味いもん食べられて良いな!」
シャーラン君の言葉に私も大きく頷いた。
そうして昼からも、今まで本が配達されなかったような小さな村にも本を届けに行った。
それまでは馬車で半日にかかる街に行かないと買えなかった本が、小さな村まで届けられるようになって、そこに住む人々も大喜びだった。
そうして渡された地図の通りに配達を終えた私達は
時間通り夕方王都に着いた。
そこにはマーカスさんもジョーンズさんも来ていて、初の飛竜便の成功を喜んでくれた。
待ち望んでいる本を配達してもらえて、受け取った人もハッピー!
配達する私も喜んでもらえてハッピー!
先生も苦労して書いた本が早く読者に届いてハッピー!
皆が幸せな気持ちになれた事に、私はこの仕事に関われる事ができて本当に良かったと思ったのであった。