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魔法で荷物お運びします!  作者: 耳折れ猫
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これからについて

 私が目が覚めた時には日差しが大分傾いていた。

私は洗面台で顔を洗っていると、扉をノックされた。


「お兄様がお見えになりました」


 20才くらいの若いメイドさんが呼びに来てくれた。


「お兄様、来てくださってありがとうございます、

先生が夕食を準備してくださったので、それまでにご挨拶されますか?」


「そうだね、先にご挨拶させていただきたいな」


 私は先程のメイドさんに先生はどちらにいらっしゃるのか聞いたら、書斎で執筆中だと教えてもらった。

 執筆の区切りが良い所で知らせてもらえる事になったので、お兄様と部屋で待つことにした。


「ジェンナ、リジス・ブレナン女史について調べさせてもらったよ。

 彼女は、42才、独身。ベルモンド前侯爵令嬢で前王宮侍女長だった。

 王宮侍女をしながら書いた、王宮を舞台にした恋愛小説が大ヒットして売れっ子作家になったが、侍女の仕事にも手を抜く事無く、王太后陛下や王妃陛下、王女殿下方の信頼も厚かったみたいだな。王族女性は皆熱狂的なファンでいらっしゃるそうだ」


「ええ、先生の[王宮侍女は見たシリーズ]は、それは心躍るお話ばかりでしたもの。発売日には本屋に長蛇の列ができて、品切れ続出のベストセラーですのよ。

王都の女性は皆先生のファンですわ」


「そ…そこまで人気があるのか。専業作家になるから侍女長を辞したいと言ったら国王陛下が辞めさせたくなくて許可しなかったそうだ。しかし王族女性が陛下を取り囲んで、彼女の作家としての才能を邪魔するなと説得されたという話は本当だったのだな」


 国王陛下を取り囲んで説得…何それ怖い…


 そこまで話をしていたら、先生の仕事に区切りができたと書斎に呼ばれた。


 貴族社会では立場が上の者から声を掛けてから下の者が名乗るのが普通なので、部屋に入って兄は騎士の礼を取って声を掛けられるのを待った。


「よく来てくれましたね。アーロン・マーキュリー騎士」


「お初にお目にかかります。マーキュリー男爵の子、アーロン・マーキュリーと申します。この度は、妹ジェンナがお世話になり、ありがとうございます。

 至らぬところもありますが、よろしくお願い致します」


 そこで勧められて椅子に座って話をするこになった。


「ところでアーロンさん、聞きたい事があるのですが」


「何でしょうか?」


「ジェンナさんは、なぜ学校に行ったり、家庭教師についたりして学んでいないのかしら?」


 私はハッとして兄と顔を見合わせた。

 そして、兄が恥ずかしそうに答えた。


「父、マーキュリー男爵が女性は学校に行って学ぶ必要は無く、母から家政や社交マナーを学べば良いとの事で、我が家では男子の私しか学校に行かせてもらえませんでした」


「やっぱり男爵がジェンナさんの才能を潰していたのね。

図書室にあるジェンナの本を見せてもらったけど、流行りの小説の他に王立図書館にしか無い数字、物理、歴史、地理…さまざまな学術論文もあったわ。

しかも全部写本で。

 ジェンナさん、あなたが自ら王立図書館に行って写本したのかしら?」


「あっ、はい、高価な本は買ってもらえなかったので

私が写本して図書室に置いていたのですが、いけなかったでしょうか?」


「いけない事はないわ。その年であれだけの高度な知識を学校にも行かず、家庭教師もつけないで自分一人でよく身につけたものだと私は驚いたのよ」


「ジェンナは図書室にそんな本を置いていたのか。

 私は子供の頃しか図書室に行った覚えが無いから、ジェンナがどんな本を読んでいたのか知らなかったよ」


「アーロンさん、彼女は王立学園や大学で学ぶべき人物だわ。こんな才女こそ高度な教育を受けて社会に出て行って欲しいのに、その芽が出る前に潰すなんてあってはならない事なのよ」


 先生の話に私は「そうだったのか〜」くらいにしか思えなかった。

 王立図書館で本を読んだり写本するのは楽しかったし、学校に行って貴族女性が身につける興味の無いダンスや社交をする方がよっぽど無益だと思っていたのである。


「私は先生がおっしゃった本の配送の方が興味があります。自分の空間魔法が仕事になるなんてワクワクして止まらないんです。学問はこれまで通り本で学べば良いと思うので、先生私に仕事をさせてください!」


 嬉しそうに声を弾ませて仕事をしたいと言うジェンナにリジス先生は「わかったわ」と言って諦めてくれた。


「でも大学の費用が無ければ、私が援助しても構わないと思っているの。

本を読むのも大切だけど、あなたには実験とか討論とか、学校に行かないと得られない体験スキルが圧倒的に足りないわ。

勉強が物足りなくなったら言ってちょうだい。協力は惜しまないわ」


「はい、わかりました。先生、ありがとうございます」


 そうして兄と先生の顔合わせが終わり、夕食の場に移る事になった。


 夕食の場には、出版社の担当者でマーカス・スローンという若い男性と販売の担当者であるジョーンズ・メイカーという中年男性も席に着いていた。


「いや〜、リジス先生、無事王宮を退職されて良かったですな。国王陛下が退職許可のサインをしたくないとゴネたと聞いた時には、もうダメかと思いましたよ」


「王族女性の方が間に入ってくださって許可が下りました。本当にありがたい事ですわ」


「これで先生の新刊を待ち望んでいるファンの皆さんも狂喜乱舞される事でしょうな。

 最後の新刊が出て早一年、シャンネル公爵夫人からは、毎日のように新刊をせっつかれていまして、本当に私も痩せる思いでした」とジョーンズさんは大きなお腹を撫でて笑った。


「ほほほほほ…」先生も苦笑いだ。


「そして先程伺ったのですが、本の配送を空輸に変更するとのお話は本当でしょうか?」


 マーカスさんの問いに先生は私を紹介した。


「私の秘密兵器、ジェンナ・マーキュリーさんよ。

彼女の空間収納には何と3000冊もの本が入るの。

今まで馬車で配送していたから3ヶ月かけて国内を回っていたじゃない?

 飛竜に彼女を乗せて各所を回れば、1週間…いえ3日で配送できるわ!

 彼女がいれば運送に革命が起こるわよ」


「それはすごい」二人は嬉しそうに言った。


「それが実現すれば崖崩れで封鎖されている街道が出ても迂回せずに済むので、輸送費が削減できますね」


「ジェンナさんは本以外の荷物も収納できるのですか?家具とかの大物を運ぶとなると、運送ギルドと揉めるかもしれませんね」


「私の収納は特殊で、本を入れたいという欲求から生まれたスキルなので、本の大きさが標準になっているんです。

棚を思い浮かべていただければわかりやすいんですけど、ジャンル別に棚に本を入れていく感じなので、それより大きな荷物は無理だと思います」


「そうなんですね。それではやっぱり飛竜を使った輸送の方が、馬車を使う運送ギルドと重なる事は無いし良いかもしれません。

あなたのスキルでは、運ぶ荷物は早さを売りにした高額な物に限った方が良いでしょう。飛竜を借りるのも最近高いのですよ。

高くても売れる先生の本とは親和性も高く打って付けだと思いますよ」


「そうなのよ。区分けができるなら、配送場所に分ける事もできるし、彼女一人が乗るだけなら小さくて速く飛ぶ青飛竜を借りたら良いと思うわ」


「大きな荷物を載せて飛ぶのが赤飛竜で、体が小さくて荷物はあまり載せられないけど飛竜の中で一番速いのが青飛竜でしたよね?」


「青飛竜を3日間借りきって、国内を飛び回るのが一番効率的でしょうね。高位貴族なら高くても良いから、本を館に直接届けて欲しい方もいらっしゃるでしょう」


「おお、シャンネル公爵夫人が喜びそうなアイディアですな」


 こうして私が本を配送する詳しい話し合いが進んで夕食会は終わった。

 ダイニングからサロンに移った私達はお茶を飲みながら話をしていた。


「そう言えば先生、昨日聞いた話なんですが、黒飛竜の目撃情報が出たようですよ」


「何ですって!黒飛竜が!」


 先生が驚いて席を立った。

 黒飛竜が現れたのが何につながるのかわからないが

大変な事が起こっている事は私にもわかった。


 

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