飛竜同盟
私達はアッソード神殿を後にして、ラフラン群島王国の女王陛下に報告に向かう事にした。
その時、私はある事を思い出しシャーラン君に尋ねた。
「シャーラン君、ベルーガ王国の貴族法では、他国の王族をベルーガ王国の貴族にはできないとあるんだけど、シャーラン君の男爵位はどうするの?」
「えっ、そんな規則があるんだ」
「他国の王族を自国の貴族にするって、相手国にランクを付けて自分より下に位置付けるっていう大変失礼な事なのよ。だからどこの国もやらないわ。
たぶんベルーガ王国もシャーラン君が王族だと知ったら、男爵位は取り消すと思う」
「そうなのか面倒だな」
「ううん、シャーラン君が王族になったら、とってもやりやすくなるのよ。だから一緒に頑張ろうね!」
「ジェンナさん、とっても黒い笑顔ですね」
「ふふふ、ありがとう」
「褒めてないって」と頭を抱えるシャーラン君だった。
私達は、女王陛下に拝謁し、ミメラジーナさんがアッソード神殿で半年の療養に入った事と、夫のページャンさんかもしれない人が群島のどこかにいるかもしれないという話をした。
「姉上は、身体が回復されたらページャン氏を探しに行くだろうな。
私は幼かったけど、2人が相思相愛の仲だというのはわかったぞ。いつも中庭でイチャイチャしてた馬鹿っプルだったからな」
(両親の若い頃の恋話は子供にはキツいね、シャーラン君…)
「それでだ。我が国は長子相続法だ。姉上が戻られたら私は王座を降りて臣下になり、姉上が即位される。そうしたら、シャーランは王太子だ」
「その事ですが、母上が意識を取り戻されるまで、半年間あります。その間意識が無く意思が確認できない間は即位できませんので、その件は保留にさせてください。
それからアッソード神殿の意思をお伝えします」
「アッソード神殿の意思?」
ここから私が代わって説明した。
「はい、アッソード神殿は戦いに関する物以外の荷物を飛竜を使って運ぶ事を認めてくださいました。
その為に飛竜を使いたい国と同盟を結んでいただきたいのです」
「同盟とな?」
「はい、飛竜を使った国際便を作ろうと思います。
できれば相手国の王都の近くまで乗り入れるような。
そこまで相手国の奥深くまで乗り入れようと思ったら、不戦を誓った同盟が必要です。
ですから、不戦同盟を結んでいただきたいのです」
「しかし国同士を結ぼうと思ったら、かなりの数の飛竜を揃えなければならないぞ」
「赤飛竜と黒飛竜については今育成中です。アッソード神殿が後ろ盾になって下さるそうなので、その辺はご相談させて頂こうと思っています」
「アッソード神殿が後ろ盾につくじゃと!それはもう決定事項ではないか!」
ラフラン群島王国の国民は、飛竜神アッソードを信仰している。
だから王族は[神授の儀式]でアッソード神殿に参り、青飛竜を授かるのだ。
神殿長が後ろ盾になると言われた時は胡散臭く思ったけど、素晴らしいご利益だった。
私は心の中で神殿長に謝った。
私達はその後、官僚と一緒に細かい部分を詰めて同盟の骨格を整えた。
そしてシャーラン君を団長にした使節団は、アッソード神殿から借りた飛竜に乗ってベルーガ王国に飛んだ。私もしれっと紛れ込んだ。
「これはラフラン群島王国の使節団の皆様…えっ、ランド男爵?」
国王陛下も宰相達上層部の人も自国の男爵であるシャーラン君がラフラン側の団長なのを驚きの表情で見ていた。
「ランド男爵の母君がラフラン群島王国の第一王女で次期女王になられる事が判明しました。つきましてはこちらの国の貴族法では、シャーラン王子が男爵位になる事を禁じていると思いますが、いかがなされますか?」と私は聞いた。
私は平民の若い女性なので、この場にはラフランの正装で来ていた。こういう場はハッタリが大事なのだ。服装でなめられてはいけない。
「たしかに…他国の王族を我が国の貴族位につけるのは禁じられています。この場合、ランド男爵の男爵位
を返上して、自治区に戻す必要ががあります」
宰相の言葉に陛下も納得されたようだ。
今回の交渉ではランド男爵領を自治区に戻して赤飛竜と黒飛竜の所有権を放棄してもらわなければならない。
青飛竜を含めた飛竜便の組織を作らないと、これから同盟に加わる国が出た場合、権利関係が複雑になってしまうのだ。
同盟とその補償等、たくさんの問題を詰めなければならない。
「さて、今日は何の交渉に参られたのですか?」
「本日は、飛竜を使った2国間の輸送についてお話しさせて頂こうと思います」
シャーラン君は打ち合わせ通り滑らかに説明できている。あとは専門の文官と一緒に交渉すれば今回の交渉はまとまるだろう。
私が席を外してお手洗いに行った時、後から肩をポンと叩かれた。
振り返って見ると、ウェナの領主ミドルノン伯爵が立っていた。
(うぉ〜、なぜこんな所にこの方が!また文句ですか?)
「これはミドルノン伯爵お久しぶりです。お元気でいらっしゃいますか?」
「お元気ではないわ!なぜベルーガ王国の飛行ギルドの操縦士の君が、ラフランの使節団にいるのだ!」
「あっ、バレました?化粧を濃くしたからバレないと思ったんですけど、案外わかるものなんですね」
私は仕方なく今までの経緯をざっと伯爵に説明した。
「ほお、アッソード神殿が後ろ盾になったのか。
それは話が進みやすいな」
ミドルノン伯爵は、ウェナの領主兼ベルーガ王国の外務大臣も務めているそうだ。
今回のラフランからの急な申し出に何か裏が無いか調べていたと言っていた。
「飛竜を使った飛行便の価値はウェナの領主である私が一番よく知っている。医療や薬の研究が進んだラフランとの交易は我が国に多大な益をもたらすだろう。私もこの交渉をまとめるのに力を貸そう」
ミドルノン伯爵はそう言うと、私の頭を優しくポンポンして「よく頑張ったな」と言うと交渉の席に戻って行った。
私はふいに涙が出て来た。
自分のやった事を褒めて欲しかったわけではない。
でも伯爵にポンポンされた所から固まった所が溶けていくような感じがした。
こうして2国間で不戦同盟が結ばれる事になり、飛竜便の交易が始まる事になったのであった。
私はその後王都の自宅に帰り、シャーラン君は女王陛下に報告をしに戻って行った。
「のお、シャーラン、あのジェンナという女性は其方の恋人か?
あの胆力、あの知性…。どこの王妃になってもやっていける逸材ぞ。
其方が娶らぬなら、我が息子の妃にしたいものだ」
「いいえ、彼女は渡しません。彼女は私が娶りますって、キルーガ王子はまだ5才じゃないですか!」
謁見室に笑い声が響き、周りにいた文官達は何事かと振り向いた。




