卵争奪レース
「王弟のガレットである!アッソード神殿は、直ちに王族から奪った青飛竜を返し、ラフラン帝国再建の為にこの神殿にある青飛竜の卵を全て渡せ!」
私達が行くと、玄関で仁王立ちになった王弟殿下が大声で叫んでいた。
神殿長は王弟の前に姿を現すと、持っていた杖で床をドンと突いて言った。
「これはおかしな事を言いよる。青飛竜が其方らの元を去ったのは神殿には関わりの無い事。
あくまでも青飛竜の意思で其方らの元から離れたのである。
それを神殿のせいにして青飛竜の卵を寄越せとは笑止千万!ほんに厚かましい事じゃな」
「黙れ黙れ!ではなぜ王族の青飛竜が1匹残らずいなくなったのだ!」
「王族の青飛竜は王族に不満があったのだろうよ。
知りたければ自分で青飛竜に聞いてくれ。
去った青飛竜はもう帰らん。
しかし、どうしても新しく授かりたいと言うなら、方法が無くは無い。この私を納得させてみせよ。
話によっては、新しい青飛竜を授けてやろう」
「待ってください。その件に私達も参加させて頂けないでしょうか?
私の青飛竜は母親しか近くにいないので、友達がいないのです。
できたら、こちらで友達を得て連れて帰りたいのです」
シャーラン君の言葉に、神殿長はちょっと考えたがすぐに了承してくれた。
「ではお前達、青飛竜で何をしたいのじゃ?言うてみよ」
神殿長の問いに王弟は答えた。
「私はラフラン帝国を再び再建するつもりだ。
ラフラン帝国が群島王国と呼ばれるようになって5000年。
世界に君臨した栄光は見る陰もなく、小国に成り下がってしまった。
しかも、姉である女王は今の状態に満足して、帝国再建の為に働く私に刺客を送ってくる始末。
ミメラジーナ姉上の魔法に青飛竜があれば、世界中の者は再びラフラン帝国に跪きラフラン帝国がこの地に蘇るであろう。
その為にも私はたくさんの青飛竜を手に入れたいのだ!」
王弟は、今までの姉思いの仮面を脱ぎ捨て、ミメラジーナさんを軍事的に利用する意図を顕にしてきた。
「其方らは何をする?やはり権力を望むか?」
「僕達は今まで赤飛竜と青飛竜で飛行運送ギルドを作って荷物運びの仕事をしてきました。
荷馬車では運べない遠方でも飛竜で空から運べば、悪路も関係なく早く確実に相手に届ける事ができます。
僕達は、飛竜を軍事に使うつもりはありません。飛竜と共に生きたいと思っています」
「双方の言い分は分かった。
では青飛竜の卵を自分達で取りに行ってもらうとしよう」
神殿長は持っていた杖に何かを呟くと、杖に埋まっていた青い石から強い光が現れた。
「青飛竜の卵はこの光の先にある島にある。
其方等はその島に行って、卵を欲しいだけ持って帰れれば良い。
しかし卵の数は限られておるからの。
双方共にせいぜい頑張って持って帰るが良いぞ」
神殿長の言葉を聞いて、王弟はすぐにジゥラに飛び乗った。
「卵は早いもの勝ちだ。私のスキルを見ただろう?
私は手からロープを何本でも出して意のままに操る事ができる。
お前達が来る前に全部の卵を私が貰ってやるとしよう」
そう言うと、王弟は光の先を目指して飛び去って行った。
私が神殿長の方を見ると、神殿長は言った。
「青飛竜の意思に任せよ。青飛竜が去ったら其方達も去れば良い」
私達はクゥに2人で乗ると光の先を目指して飛び立った。
「ねえ、シャーラン君。青飛竜の卵って見た事ある?
」
「いや、無い。って言うか、クゥはいつもへそ天で昼寝してたぞ。卵で生まれてたらへそなんて無いよな?」
「うん、おへそがあるって事はお母さんのお腹から生まれて来たって事だよ。
神殿長が言った卵を取って来いって無理だよね」
「どうすれば良いんだろう?」
「まあ、行って考えよう。黒飛竜や赤飛竜の卵でも王弟が手に入れたらやばそうだし」
私達は光の先を目指して急いで行った。
光の先にある島にはふかふかの緑の草原が広がって、その中に卵が点在していた。
1人乗りの王弟は一足早く着いていて、ジゥラから地面に降りると手からロープを出して1個1個巻き付けていた。
私達も降りて卵を見たが、どれも赤飛竜と黒飛竜の卵とは違うと一目でわかるものだった。
「どうした、卵が大きくて持ちきれないのか?私のように一度に卵を運べるスキルが無いと難しいだろうな」
王弟が夢中になって卵を集めていると、王弟の側に立っていたジゥラが静かに舞い上がった。
王弟は気がつかずに卵を見ている。
その様子を見て、私達は神殿長の言葉を思い出した。
「青飛竜の意思に任せよ。青飛竜が去ったら其方達も去れば良い」
ああ、この事か。王弟は青飛竜に見放されたのだ。
青飛竜の意思は、王弟をこの離れ小島に置き去りにする事だったんだ。
私達もそっとその島を離れ神殿に戻る事にした。
クゥに乗って飛び去ろうとした時、ガクンと引っ張られる感じがした。
「お前達、私を置き去りにするつもりだな!許さんぞ!
私にはラフラン帝国を再建するという使命があるのだ!
こんな場所で朽ち果てるわけにはいかない!」
下を見ると、王弟がロープをクゥの足に巻き付かせて引っ張っていた。
「どうしよう…」
私がロープを外す方法を考えていると、「風の刃!」とシャーラン君の声がして、ロープが切断された。
「逃がすものか!」
クゥが体勢を整えて再び飛ぼうとする所に王弟は再びロープを延ばそうとした。
「ドーーーン!」
飛び去っていたジゥラが戻って来て、王弟に体当たりした。
王弟は吹っ飛ばされて草の上をゴロゴロ転がって行った。
「ジゥラありがとう!」
それを見て私達は急いで空に舞い上がった。
「お前ら!戻って来い!」
起き上がった王弟が叫んでいるが、私達は一顧だにせず飛び去った。
私は心臓がバクバクして涙が出てきた。
危機を脱した喜びと人を死の淵に追い詰める事の重さを感じていた。
こんな水も食料も無い離れ小島に置き去りにするのだ。
その結果、王弟がどうなるかはわかっていた。
それでも私より、自分の叔父である王弟のロープを自らの手で切断したシャーラン君の方が動揺は激しいだろう。
何も喋らないシャーラン君がそれを物語っている。
「シャーラン君、私とクゥを助けてくれてありがとう」
私はシャーラン君の罪悪感を少しでも減らせればと思ってそう声を掛けた。




