黒飛竜の危機
そんなある日、王立大学のメジーロ教授からウェナの地震について話を聞かせて欲しいと手紙が届いたので、私とシャーラン君は休みの日に王立大学を訪れる事にした。
玄関まで秘書のスピアーノさんが迎えに来てくれたので広い構内を迷う事無く教授の部屋に着く事ができた。良かった。
「忙しい所呼び立ててすまなかったね。実は先日のウェナ地震でホールラビットのように地震を予知した魔物がいたが、他にもウェナ近辺からおかしな行動をした魔物や動物がいないか調査するよう依頼があったんだ。それで君たちの話を聞かせて欲しいんだよ」
「地震を予知した魔物ですか?」
「うん、今回の地震ではホールラビットのような魔物の他にネズミのような小動物もいなくなったと聞いている。
これを見てくれるかい?」
教授はベルーガ王国の地図にいろいろ書き込みがしてある資料を見せてくれた。
「ここが地震のあったウェナ。こっちが王都だ」
教授は地震の前にホールラビットがどの方向に逃げたか説明してくれた。
地図には退避行動をした魔物や動物の書き込みがしてあった。
「そういえば、地震の直前に飛竜達も空に逃げようとしました」
シャーラン君の言葉に、「飛竜もか」と地図に書き込んでいく。
私は地図を見ていて、あれ?と思った。
「教授、去年の春の終わりにシャーラン君が住むマンドラ山脈の[空の民]の里で地震があったんですが、それは書かれていないですよね?」
「何!マンドラ山脈で?」
シャーラン君がマンドラ山脈の地震について説明した。
「はい、俺の里があるのはこの辺ですが、去年の春の終わりに地震があって、この辺が山崩れで道が通れなくなって、里は建物がかなり損壊しました」
「その話は聞いていないな。あそこは自治区だったな。
そうか、地震がシャーラン君が男爵になって正式にベルーガ王国に編入される前だったから記録されていなかったのか」
「マンドラ山脈で地震が起こる前に何か変わった事は無かったかね?」
「飛竜は落ち着かなかったですね。廐舎にいた赤飛竜達は空に逃げようとして暴れていました。そういえば
いつもやかましい程鳴く鳥の鳴き声がしなくて、山が静かだった気がします」
「ふむ、動物達も逃げていたのかもしれないな」
教授が地図に[空の民の里]と書き込んだ。
私は地図を見てある事に気がついた。
「教授、ちょっと見てください。ここが[空の民]の里ですよね?
里とウェナを結んで、その線を延ばします。
伸ばした線の先…これ黒飛竜の生息地のラーダ島になりませんか?」
「何!」教授は驚いて地図を見つめた。
「ラーダ島は火山島だ。もしラーダ島に地震が起こるなら噴火する可能性が高い。
地震が起きたのが、空の民の里が春の終わりで、ウェナが秋の感謝祭の前日…。
もしラーダ島が春の中日の頃に噴火したら、地熱で卵を孵す黒飛竜は、ちょうど産卵したばかりの頃だ。
卵を逃がす事もできず、卵は全滅するかもしれないぞ」
「大変じゃないですか!」
教授の周りにいた人から一斉に叫び声があがった。
「黒飛竜が卵を咥えて逃げる事はできないんですか?」
「黒飛竜の口ばしを見ただろう?肉食の彼らは口ばしに鋭いギザギザが入っている。卵を咥えて飛び立とうと力を入れた瞬間割れるだろうな」
「じゃあ、人間が卵を抱えて逃げるとか?」
「いや黒飛竜の卵は大きい。一人で1個抱えるのがやっとだ。去年見た時には50個くらい卵があったのだ。
大勢の人間が島に上陸して卵を取って行ったら、黒飛竜は空から攻撃してくるだろう」
噴火する前に卵を避難させる為に大勢で上陸したら、黒飛竜に攻撃される可能性が高い。
少人数で黒飛竜の目に入りにくい夜か、まだ明けきらない朝方に行くしかないだろう。
「ジェンナ、お前の空間収納って卵を入れられないか?」シャーラン君が私に言った。
あっそうかと、私は考えた。
空間収納の仕切りを動かせばできるかもしれない。
「う〜ん、仕切りを付け替えたら入ると思うのよね。
どのくらいの大きさかわかっていたら、仕切りを50か60の部屋みたいにして、卵が割れないように柔らかクッションみたいにしたら良いと思うの」
メジーロ教授と秘書のスピアーノさん、それに周りにいた学生達が「何それ?」っていう驚愕の表情で私を見た。
王立大学の学生は全員貴族の子弟だ。空間収納を持っている人も多いだろう。
だから空間収納に卵を入れるという発想がありえない程非常識と皆思っているのだ。
その場の全員が驚愕の表情で私を見ていたが、メジーロ教授は、その方法が一番成功する可能性が高いと意識を切り替えたようだ。
「しかし卵を地熱と同じ温度に保温するのが問題だ。
温められていた卵が冷えると中の雛が死んでしまう」
「何度くらいにすれば良いのですか?」
「前に地熱の温度を測ったら、50度だった」
卵50個〜60個で50度に保温か…
「まさか温度も変えられるのか?!」
「はい、お料理温めて運んでいましたから」
あれっ?今度は教授も含めて全員が絶句してしまっ
た。
やっぱり私の空間収納はそんなにおかしいのかな?
「この卵救出の場面に君という存在がいて良かった。天の采配を感じるよ。
しばらくして、フリーズしていた教授が我に返って言った。
「よし、卵救出は船で春の中日の前日に行う。
皆、船の手配、船着場から卵の産卵場所への経路の確認。それにもし噴火した時に被る岩石亀のヘルメットとプロテクターの作成等、準備を急いでくれ」
「はいっ!」
研究室にいた全員が返事をした。
帰り道にシャーラン君が浮かない顔をしているのに気がついた。
「シャーラン君どうしたの?元気ないわね」
話を聞くと、必修科目のダンスの単位を取る為に出場するダンスコンクールが春の中日の前日なのだそうだ。
ダンスコンクールで10位以内に入ったら、ダンスの単位がもらえるのでアイルーシャ様と一生懸命練習をしていたのだ。
出られなくて卒業が1年遅れるのは避けたいだろう。
「そうなんだ。でも今回は飛竜でなくて船で行くんだから、シャーラン君はダンスコンクールに行けば良いと思うよ。
クゥもお留守番だし、私の事は教授や学生さん達が準備してくれるから大丈夫だよ」
私はそう言ってダンスコンクールを優先するように勧めた。
ちょっとシャーラン君が側に居ない事に不安はあったが、何とかなると思っていたのだ。
この時は…。




