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魔法で荷物お運びします!  作者: 耳折れ猫
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一家離散しました

今回も連載小説です。

前作がシリアスだったので、今回は明るく楽しい話にしようと思っています。

またお付き合いくださったら嬉しいです。


皆様、よろしくお願いします!


 ジェンナ・マーキュリーは15才の男爵令嬢である。

 父親のサザム・マーキュリー男爵と母親のミリアと2才上の兄アーロンと4人で、ベルーガ王国の王都ベガにある小さな屋敷で地味だけど幸せに暮らしていた。


 ベルーガ王国では貴族の子供が5才になると、神殿で[神授の儀式]という魔法スキルが与えられる儀式を受けるのが通例だった。

 ジェンナも5才の誕生日に神殿で行われる儀式で(空間収納)のスキルが与えられた。

 この(空間収納)のスキルは、小さな鞄1個分の荷物を自分しか出し入れできない空間に収納できるという物だった。

 どれくらいの人が持っているかというと、ほぼ全員が持っているありふれた物だ。

 兄のアーロンは、この儀式で(炎の剣)という滅多に出ない火属性の剣術スキルが与えられたので、騎士としてスカウトされ、今は王国騎士団員として働いている。

 つまりこの(空間収納)スキルは外れスキルと呼ばれる物だったのである。

 しかし小さな鞄1個分と言っても人間、荷物はできるだけ手に持ちたくないものだ。

 このスキルをもらった大多数の人は、外れスキルのこのスキルを便利だと思い、ありがたく使っていたのだった。


 ジェンナは、小さい頃から本を読むのが好きだったので、屋敷の図書室で本を1冊収納して、夜ベッドの中で読むのによく使っていた。

 ジェンナは7才のある日、いつものようにベッドの中で本を読んでいたのだが、薄かったのか早く読み終わってしまった。

 眠くないのに読む本が無い。

これは本好きの少女には耐えられない苦行であった。

 屋敷の中は皆寝静まっているのだろう。物音一つしない。

 ジェンナは図書室に行く為に2階にある部屋を出て、1階の奥を目指した。

 階段に来ると外は雨が降っているのか雨音が聞こえる。

 暗い階段を蝋燭の灯りを便りに降りて廊下を進み、左に折れた先の2つ目の図書室の扉を開けた。

 灯りを点けるとヒヤッとした空気の中に大好きな本の匂いがした。

 ジェンナは空間から本を取り出して棚に戻すと、隣の棚から兄が読んでいた冒険小説を取り出した。

 その小説は雑誌の連載小説を単行本にしたもので全10冊になっていた。


「1冊づつ持って行くのは面倒くさいな〜」


 面白かったら、またすぐに来なければならない。

だが、手で何冊か持つという考えは頭に無い。

 あくまで手に持たずに済ませたい面倒くさがりの少女だった。


「よし、空間収納に入るだけ押し込もう!」


 小さな空間にどれだけ本が入るかやってみる事にしたジェンナは、1冊1冊空間に入れて行った。

 

「1冊…2冊…3冊入ったわ!」


 ジェンナは嬉しそうにそう言うと図書室を出て部屋に帰った。


 それからジェンナは、空間に複数の本を入れるのが当たり前になっていった。


「ああっ!また空間収納にある本を全部読み終わっちゃったわ!」


 小さな鞄1個分の空間に、毎回本を押し込んでいるうちに、ジェンナの空間は本が10冊入るようになっていた。


「まあ、お嬢様、ではお嬢様の空間には本が10冊も入るのですか?」


 朝、読み終わった本を机の上に積んでいたのを見たメイドのバネッサは積んである本を見て驚いた。

 平民のバネッサには魔法が使えないが、普通の空間魔法では小さな鞄1個分しか入らない事は知っていた。


「空間魔法の容量が大きくなるって、お嬢様が優秀な方だからですかねぇ?」


 そんな訳は無い。単に面倒くさがりだったジェンナが必要に迫られて編み出した技術である。

 普通の貴族なら空間には貴重品だけ入れて、荷物は従者やメイドが持つので、空間にギューギューに入れる必要が無いのだ。


 そして15才になった頃にはジェンナの空間には、本が100冊は余裕で入るようになっていた。

 普通の貴族令嬢ではあり得ない容量だった。

 おまけにジェンナは本をジャンルごとに仕分けして収納するという裏技まで編み出していた。

 ここまで来ると鈍感なジェンナでも、さすがに人と違う事に気がついた。

 街の本屋で推しの作者のシリーズ本を発見しても一回でまとめて買う事はせずに、別の本屋で残りを買うくらいの知恵はついたのだった。


 そんなある日、ジェンナは父に呼ばれて執務室に赴いた。

そこには母と兄の姿もあった。


「すまない!皆!私は詐欺に遭って無一文になってしまった!」


「なんですって!どういう事ですの!」


 お母様の耳をつん裂くような声にビクッとしながらもお父様は答えた。


「実は、ヒースマン子爵からアレイド地方で発見された宝石の鉱脈に投資しないかと誘われて5000万ゴールド投資したんだが、その鉱脈はクズ石しか出ない鉱脈だったというのだ」


「そう言えば、あなた最近ヒースマン子爵の屋敷に通っていらしたわね。

それで我が家に5000万ゴールドもの大金なんて、どこにあったのですか?」


「それが、今動かせるお金が50万くらいしか無いって言ったら、子爵が今投資しないと投資したいと言う人はたくさんいるからこの話は無しだって言って…」


「言って?」


「この屋敷を抵当に入れて金を借りたのだ!」


「………」


「それで借りたお金はどうなさったの?」


「ヒースマン子爵がアレイド地方の会社に投資したのだが、その会社が倒産した。ヒースマン子爵が調査したら、その会社は幽霊会社で実体の無い会社だったと」


「ヒースマン子爵はどうなさったんですか?」


「さっき屋敷に行ったら、もぬけの殻だった」


「逃げられたのですね?」


「そのようだ」


 お母様の顔から表情が無くなってきた。怖い…


「これからどうなさるおつもりですの?」


「アーロンは王国騎士団の団員だから寮があるだろう?だからこのまま王都で暮らせるし、私とミリアとジェンナは、バラギーの義父上の領地で義父上の仕事のお手伝いをしようかな〜なんて…」


 私は父上の言葉にハッとなった。


「えっ、嫌です!バラギーのお祖父様の所は、本屋が1軒も無い大田舎なんですよっ!

 リジス,ブレナン先生の新刊が手に入らないじゃないですか!」


「ジェンナ!そりゃバラギーは人の数より牛の数の方が多い大田舎ですけど、あなたはまだ15才なのよ!

 この王都でどうやって生活していくつもりなの!」


 母ミリアの言葉に私は「うっ!」と言葉を詰まらせた。


「住む所はこれから考えます!お母様の従姉妹のマーサおばさまが王都でお店をしておられるから、そこで店員として働く事もできるし!」


「マーサのお店は紳士用の洋品店だけど大丈夫かしら?でもマーサの所なら貴族地区だから治安も良いし家も広いからジェンナが暮らせる部屋もあるわね」


 そこへお父様がまた爆弾発言を落とした。


「ミリア、ジェンナ、悪いがこの屋敷は今日中に明け渡ししないといけないんだ。

 明日にはこの屋敷にある物全て競売にかけられてしまう。早く荷造りして持てるだけ持ち出さなければならないのだ!」


「なんですって!荷物を馬車に積み込むって言っても

ドレスだけでもいっぱいになりますわ!

 お気に入りの椅子やこの前描いてもらった肖像画はどこへ入れたら良いんですの!」


 お父様とお母様は慌てて自室のクローゼットに向かった。


「お兄様は平然としていらっしゃいますのね?」


「俺は騎士団の寮に行けば、服は支給されるし、食事の心配も無いし、身一つでも困らないからな。

 ジェンナはドレスとか持って行かないのか?」


「私もドレスはあまり興味がありませんから、着替えが2.3枚あれば大丈夫ですわ」


「そうだな〜、ジェンナは女なのに着飾る事に興味無いもんな。お前の一番は本か?

 そう言えば図書室の本はどうするんだ?持って行かないのか?」


「図書室の本!」


 お母様がドレスの事ばかり言ってたからクローゼットの事しか頭に無かったわ!

 そうよ!図書室にある私の大事な本をどうすれば良いの!

私は図書室に駆け出した。


「リジス.ブレナン先生の本は絶対持って行かないといけないし、アーサー.ギャルドシリーズも残しておけないわ!

 こっちの棚もこっちの棚も私の宝物なのにどうしたらいいの!!」


 とにかく空間収納に入るだけ詰め込まなければならないと悟った私は、空間に本を押し込める!押し込める!押し込める!

 こっちの隙間にも押し込める!押し込める!押し込める!


「あらやだ、全部入っちゃったわ!」


 あれだけあった図書室の本が全部空間収納に入ってしまったのだ。

 うん、火事場の馬鹿力って凄いね。


 本を収納した私は、結局着替えを鞄に詰めて玄関に

行った。

 家の使用人には既に紹介状と賃金が用意されて渡されていた。

 屋敷の前の馬車には、ほとんどお母様のドレスが満載されていて、これに人が乗れるのか不安なレベルだ。

 鞄一つで現れたお兄様と私は、馬車を牽く馬の体を撫で「頑張るんだよ」と労った。


 お母様は私にマーサおばさまに宛てた手紙を渡してくれた。


「ジェンナ、マーサにはくれぐれもジェンナをよろしくと書いたけど、仕事が辛かったらバラギーにすぐに帰って来るのよ!

 それからアーロンもジェンナの事を気にかけてやってね!」


「わかりました!ジェンナは本の事しか考えていないから、僕が気をつけて見ておきますよ」


「不甲斐ない親ですまないな。アーロン、ジェンナ。

この屋敷はお前たちに受け継いでもらおうと思っていたのだが…」


 お父様の言葉に兄も私も涙ぐみそうになった。


「僕が騎士団で出世したら、これより大きな屋敷を買って、父上と母上を王都に呼び戻しますからね!

楽しみにしていてください!」


 兄の言葉に両親はハンカチで涙を拭っていた。

だから私も決意表明をすることにした。


「わ…私、荷物のお運び人になります!そしてお金をいっぱい稼いで、この屋敷を買い直してみせます!」


 私を除く3人がポッカーンとして口を開けて私を見ていたのであった。




明るく楽しい話にすると言いながら、初っ端から一家離散ってどうなのかですよね(^^;)

今後は明るくなるはずなので、次回をお待ち下さい!

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