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2週目

 今週もこの日がやって来た。意見箱開封日だ。例によって新人の太田くんが意見箱に手を入れ、用紙を取り出す。


『お尻が痒くてもかけない劣悪な環境を改善してほしい』


 劣悪な環境って⋯⋯勝手にかけばいいじゃん。


「確かに俺もそう思います」

「私も恥ずかしくてかけないです!」

「俺も俺も!」


 もしかしてうちってブラック企業だったの? ごめんよみんな⋯⋯


「尻かき部屋を作れば解決すると思います」


 課長の湯川くんが言った。なるほど、尻が痒くなったらそこに入ってかけばいいのか。


「お尻以外でも人前でかきたくないところがあったらここでかいても構いませんよ」


 まるでその部屋があるかのように話す湯川くん。でも、良いアイデアだと思う。夏〜は股間が痒くなる〜って歌も教科書に載るくらいだし、色んなところが痒くなるもんね。


「でもその部屋って、『今中にいる人はお尻とかをかいていますよ』って言ってるようなもんじゃないですか。恥ずかしがり屋の私はお尻をかいてると思われること自体が恥ずかしいんですけど」


 なんだこいつ。こんな良いアイデアに水を差すなんて。嫌だったら入らなければいいだけでしょ。お尻が痒いけど、かいてるところを人に見られたくないって人のための部屋なんだから。


「ということで私は反対です」


 実は私はこの人が少し苦手だ。女性陣のリーダーで、いわゆる御局(おつぼね)様だ。仕事は出来るのだが、いつもキツい言い方をすることで有名なのだ。


「じゃあこうしましょう。お尻かき屋さんを雇う。こうすれば『お尻をかいている』じゃなくて、『お尻をかいてもらっている』になります。手を洗う必要もないので水道が不要です」


 素晴らしい意見だ。さすが世界一の頭脳を持つ大頭(おおがしら)くん。確かにそうすればお尻をかいてる人ではなくなる!


「そんなの屁理屈でしょ!」


 御局様は怒っている。少々の議論の末、部屋を作るのと、お尻かき屋さんの求人を出すことが決定した。


 さて次のものを見てみよう。太田くんはもはや意見箱から紙を取り出し発表する用のロボットのようになっている。


『伊藤さんのアゴが輝き過ぎてて仕事に集中出来ない』


 出たよ名指し。雰囲気悪くなるから名指しはやめて欲しいのに。今まで4分の3が名指しだぞ? 人に対しての不満ばかりじゃないか。


「なんでそんな光ってるんですか」


 太田くんが訊ねた。よかった、太田くんはロボットになんかなっていなかったんだね。


「そりゃ毎日磨いてるからねぇ」


 磨いてんのかよ。


「磨くと何かいいことあるの?」


 これは煽ってるんじゃなくて、興味があるから聞いている。


「アゴ触ってみてください」


 触るの? さわさわ⋯⋯


「社長、自分のじゃなくて僕のアゴです」


 あ、間違えてた。恥ずかし。さわさわ⋯⋯!? 餅!? なにこれ餅!? あ〜、気持ちいい〜。ずっと触っていたい⋯⋯


「ね、分かったでしょ」


 すごいなぁ。アゴってこんなスベスベモチモチになるんだなぁ。


「でも光が反射して眩しいのは事実なんで」


 太田くんが少し強めに言った。もしかしてこの紙書いたの太田くん?


 長い議論の結果、伊藤くんは髭を剃ってはならないという結論に至った。今日も平和に近づいた。来週も頑張ろう!

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