願いと覚悟
初めまして。誓と申します。
ようやく完結まで書き終わったので、まったり更新していきます。
よろしくお願いします♪
いいかい、シャノン。
人を疑うことは容易い。
騙されるかもしれないし、裏切られるかもしれない。奪われるかもしれないし、最悪の場合、殺されるかもしれない。
けれど────お前は信じてあげられる人でありなさい。
たとえ、相手が翼人であっても。
世間の噂や偏見に囚われず、ただひたすらに、ただまっすぐに。言葉を尽くして、想いを尽くして、信じたいと感じたその人の背中に、何度でも。偽りなき自身の手を伸ばしてあげるといい。
いつか……自分の尽くした心が、尽くした姿勢が、その人の胸に届くように。
一人では飛べないその人の、大きな翼となるように。
◆
青月が雲に隠されて仄かに光を落とす夜。
泣いているかのごとく崖の下からヒューヒューと何度も吹き上げる夜風が、その少年の翼から、紅色に輝く鮮麗な羽根を一枚一枚さらっていく。
合わせていた両手を下ろし、音もなく徐ろに立ち上がった少年は、ふと憶い出された父の言葉に目を閉ざして、切り立った崖の先端に埋まる古びた白い十字架に背を向けた。
見渡す限りもう周りには何も無い。ただ、辺り一面の草花が通り抜けていく冷たい風に吹かれ萎れていた。
そんな中、上空で彼を静かに見下ろす月とは対照的に、儚げに伏せられた少年の瞳は、これ以上無いほどの怒気と悲哀を纏って禍々しい緋色を作り上げる。
彼の噛み締めた唇には真っ赤な血が滲み、拳は手のひらに爪痕が残るほど強く握られている。
「行くよ、父さん。
──────翼人を狩りに」
それは、人間であった彼がようやく翼を手に入れて、亡き父に残した覚悟の言葉。
彼の背を見つめる白い十字架が強く風に吹かれて激しく軋む音をたてるが、それは彼に届かない。
少年の名はシャノン・ウォード。
この物語の主人公である。