ep10.『聖母と道化、その支配人』招かれざる客
その女が俺たちの目の前に現れたのは放課後だった。
午前中から降っていた雨。
安っぽい透明なビニール傘を差したその女は水森唯の姿を見るなりこちらをキッと睨みつけた。
母親と共に急遽ウィークリーマンションに移ったという水森唯が忘れ物を取りに自宅に戻ろうとした時のことだった。
下校がてら俺も一緒に歩いていたんだが、まさかこんな場面に遭遇するとは夢にも思っていなかった。
「アンタね!?チクって余計なコトしてくれたのは!?」
タバコと香水の混ざった匂いがほんのりとこちらにも漂ってくる。
根本が黒くなりかけた茶色い髪の女。
「……?」
水森唯は怪訝そうな表情を浮かべたまま固まっている。
誰だろう。
水森の自宅の前に居るってことは水森唯に用があるんだろうが─────────────
「てか、マジでウザイんだけど!?どうしてくれるワケ!?」
話が見えてこない。
「あの、どちら様でしょうか……」
水森唯が警戒した様子で女に尋ねる。
「ハァ?アンタには関係なくない?母親に似てブス過ぎてウケるんだけど」
水森唯の返答に対し、女はさらに苛ついた様子で口汚く罵る。
話が支離滅裂で状況が把握できない。
この女は何しにここに来たって言うんだ?
いや。
そもそもこの女─────────誰だ?




