ep10.『聖母と道化、その支配人』拘りの理由
「私が勝手に使ってただけだから─────────」
水森唯の言葉に何処か引っ掛かるものを感じた俺はこう聞き返す。
「ん?それってさ、もしかしてホントは自分の眼鏡じゃないってこと?」
俺の言葉に対し、水森唯が一瞬ビクリとしたように感じた。
「あー確かに!!なんかわかるってカンジ!」
上野がいきなり大きな声で相槌を打つ。
「なんかさ、女子中学生の選ぶ眼鏡のフレームじゃ無いって思ってたんだよね!」
レトロ風なコーデって言うにはアンバランス過ぎるし、という上野の言葉はもっともなものだった。
「なんかさ、お爺ちゃんが着けてる眼鏡みたいだなーって思っててさ────────」
そこまで言いかけて上野はハッとした様子で慌てて自分の口を押さえた。
「……あ、ゴメン。disるつもりとかじゃなくて……」
ううん、と水森唯は静かに首を振った。
「上野さんがそう思うのも無理はないわ」
だって、と一呼吸置いて水森唯はこう続けた。
「あれはお父さんの眼鏡を勝手に使ってただけなの──────────────」
父親の眼鏡?
確かに、水森唯に全く似合ってなかった前の眼鏡は父親のものだと言われたらなんとなく納得出来た。
数十年前のような古めかしいデザインの眼鏡。
レトロ風・エモいと言えば聞こえはいいが───────実用するにしてはただの骨董品、度のあってない古い眼鏡でしかない。
それをどうして?
俺は水森唯の次の言葉を待った。




