ep10.『聖母と道化、その支配人』絆
「……それさ、どういうことなんだ?」
俺がそう尋ねると───────────上野は呆れたように言った。
「あーしさ、水森っちが前をちゃんと見て歩いてないんじゃないかって思うことがしょっちゅうあってさ」
なんか絶対に眼鏡の度が合ってなかったよね、フレームもなんかブカブカしてた気がしてたし、という上野の言葉は確かにもっともなものだった。
どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。
水森が猫背なのも、どこか人の目を避けるような仕草も────────────
全部それが原因だったのか?
「だからさ、あーし何回も水森っちに言ったんだよね、新しい眼鏡買って貰いなーって」
その言葉に一瞬、水森唯がビクリと身体を反応させたのを俺は見逃さなかった。
そうか。
眼鏡の度が合ってなくても、家庭の経済状況を考えればそれは言い出せなかったのかもしれない。
俺がそう考えていると、水森唯が慌てて首を振った。
「……ま、まあこれって─────────私が勝手に前の眼鏡に愛着を持ってただけだから──────」
愛着っていうか執着だったのかもしれない、と水森唯がボソリと呟き、上野がそれに反応する。
「執着?どしたの?小顔見え効果があるから手放したくなかったとか?」
でも水森っち十分小顔すぎるほど小顔じゃん、と上野は水森唯のほっぺをむにゅりと摘む。
「……ふえのひゃん」
水森唯が間の抜けた声でか弱く声を発し、首を振った。
「そうじゃないの」




