ep10.『聖母と道化、その支配人』turning around
翌日。
登校した俺は水森唯を見て驚いた。
すっかり別人のようになった水森唯は───────────その後に身に起こったことを教えてくれた。
まず、水森家に急遽民間のヘルパーが派遣され、憔悴しきった水森唯の母親は家の外に連れ出されたらしい。
祖母はケアホームへの入居が既に決定したとのことだ。
通常は順番待ちらしいんだが、そこは地元の名士であるあのじいさんの人脈を使ったのかもしれない。
まあそうだな。あのオッサンが本気になれば老人ホーム建設くらいは朝飯前に思えた。
荒廃しきった家で暮らすのは不便だろうとのことでウィークリーマンションが急遽手配されたとのことだ。
「……佐藤君のおかげよ。本当にどうもありがとう」
そうはにかむ水森唯の表情はどこまでも軽やかだ。
水森唯の眼鏡は真新しいものになっている。
今までの重く暑苦しい、牛乳瓶の底のような極太黒縁の眼鏡は真逆の──────────アンダーリムの細い銀縁の眼鏡。
昨日までは小さく見えた水森唯の瞳は生き生きと大きく躍動しているかのように思えた。
気のせいか体格までも変わって見える。
ピンと張った背筋の水森唯はどこか不思議な自信に満ち溢れているかのようだ。
「……へえ、母ちゃんとばーちゃんのことはもう安心なんだな。良かったじゃねぇか」
水森もめっちゃ元気みてぇだしマジでよかったな、と俺が言うと横から上野が会話に割って入って来る。
「えー!??水森っち、眼鏡変えたの!?めっちゃかわいーし??」
上野はバンバンと水森の肩を叩いた。
「……ええ。昨日お祖父さんが眼鏡屋さんに連れてってくれて作ってくれたの」
水森唯は少し照れた様子で答える。
「えーマジでー?めっちゃ似合ってるし!そのフレーム!!」
どこそこのブランドだよね、みたいな話を上野は無邪気に振り、水森もまたそれに対し嬉しそうに頷く。
なるほど、生まれて初めて会った孫娘にプレゼントか。
あのオッサン、めっちゃ喜んでたもんな。
俺がぼんやりとそう思ってると─────────────上野が意外な言葉を発した。
「でもさ、心配してたんだよー水森っち!だってさ、前のやつ眼鏡の度が全然合って無かったっしょ!?」
「……え?」
思わず俺が聞き返すと、上野はこう続けた。
「水森っちはさ、せっかく背が高くてスラッとしててスレンダーなモデル体型なのに─────────そのせいで猫背になってたっしょ!?」
は────────────!?
確かに、水森唯はクラスの中でも一番背が高いのに不自然に猫背だったんだが────────────
それって全部、眼鏡の度が合ってなかったからなのか!?




