ep10.『聖母と道化、その支配人』フルドライブ
そこからが急転直下だった。
嘘だと思うだろ?そのまさかだよ。
「……佐藤君……だったかな?唯をここまで連れてきてくれたこと、本当に感謝する───────────」
じいさんは俺の目を見て丁寧に礼を言ってくれた。
「いえ。水森さんには読書感想文を書くのにアドバイスを貰ったりと助けてもらったので」
それに、今日は女性へのプレゼントを買うのに相談に乗って貰ってたんです、と俺は強調した。
「……そうだったのかい?」
水森のじいさんは静かにそう言った。
けど、その視線は俺を捉えて離さない。
多分、俺のことを見定めてんだろう。信頼に足る人物かどうかをな。
だからさ、この部分は絶対に言っとかなきゃって思ったんだよ、俺的にはさ。
[俺は水森唯の彼氏でも無ければ今後付き合うつもりもない]
ここがポイントなんだ。誤解されちゃ敵わない。
何せ、さっきまで鼻水ダラダラ流して目を真っ赤にしてたオッサンは──────────跡形もなく消え去ってたんだからな。
目の前に居るのは鋭い眼光の中年男性、いや────────────
まるで獲物を見つけた狩人のようじゃないか。
このオッサンは敵に回すべきじゃない。俺の本能がそう言ってんだな。まず間違いないぜこれは。
「……そうか。これからも唯の良き友人でいてやってくれないか」
オッサンが静かにそう言い、俺は勿論ですとキリッとした表情を作って答えた。
「……俺は女心がさっぱりわからないもんで、唯さんに相談に乗ってもらってたんです。そう、いろいろと────────」
俺がダメ押しでそう言うとオッサンも察したんだろう。俺に対する圧のようなものが消えたのを感じた。
よしよし、とりあえずどうにか着地したようだ。
そしてその後、オッサンは俺達を応接室に残したまま少し席を外した。
先ほどの受付女性が部屋に入り、俺と水森唯の目の前に高級パーラーのケーキを置いた。
駅前にある店のケーキで、めっちゃ高いやつだ。一切れ千円くらいなんだ。マジでさ。
その時の俺達が気付かない間に───────────そう、俺達がケーキを食ってる間にオッサンの総攻撃は既に始まっていたんだな。




