ep10.『聖母と道化、その支配人』駆け落ちの成れの果て
は……!?
「じいさん……!?じいさんて居たのか!?」
水森家が経済的に困窮していたっていうのは別の世界線でも聞いてたから知ってたんだけど──────────
母方の祖父ってことか?
親戚、特にじいさんが居るってなら話は別じゃねぇか。
どうして今まで頼らなかったんだ、と俺が尋ねると水森唯は首をすくめた。
「私のお母さん、勘当されてるのよ。デキ婚で駆け落ちしちゃったから」
その時にお祖父さんの顔に泥を塗ってしまったらしくてね、と水森唯はこれまでの経緯を簡単に説明してくれた。
ご当地アイドルによる町おこしの企画を立ち上げたのは当時、商店街の商工団の元締めだった水森唯の祖父だったという。
アイドルに疎い地方都市の中高年ばかりで構成された団体であった為、都内から『地域おこし専門のコンサルタント』を招いたのが運のつきで─────────その男に水森唯の母親は妊娠させられてしまう。
ご当地アイドルとしては異例の全国的なブレイクを果たしていた金の卵である娘を孕ませた男を許せる筈もなく、祖父は男をクビにしてしまう。
娘には中絶を迫るが、水森唯の母親はそれを拒否───────────それ以来絶縁状態が続いているという。
「……なるほどな」
勘当された水森唯の母親としては実父に助けを求めることが出来ないんだろう。
「……私の祖父にあたる人は地元の名士らしくてね」
祖父がオーナーだという商店街の中心部に位置する老舗の大型呉服店の名前には聞き覚えがあった。
「知ってるぜ、その店。呉服だの学生服だの……布地や反物、バッグなんかも手広く売ってるデカい店だろ?」
どちらかというと『田舎のデパート』といったイメージの方が近いだろうか。
5階建の建物が上部で連結されている。
クラシカルな構造の店舗は他にはこのエリアの何処にも残っては居ない。
独自の店構え、独自の品揃えのその店舗は────────────頑固な祖父の性格を反映しているかのようにも思えた。
「……会ったことは一回もないの。だけど───────」
水森唯は勢いを付けてブランコを飛び降り、力強く地面に着地した。
「今会わないとダメだって──────そう確信したの」
 




