ep10.『聖母と道化、その支配人』チョコレートシロップの溶解
「……ん?」
そんなこと言われたか?
なんか店員のテンションや挙動の方が気になったし、そう言われてもピンと来ないが─────────────
「そうだっけ?」
俺がそう答えると水森唯は少し俯く。
「……そう。今だってそうでしょ?こんな眺めのいいテラス席なんかに案内されてて───────」
私とカップルに間違われて嫌じゃないの?と訊ねる水森唯の真意がわからない。
?????
「……ちゃんと違いますって訂正すべきってこと?それともさ、外で食うのが嫌なのか?」
今からでも店内の席に替えてもらうか?と俺が提案すると水森唯は更に首を横に振った。
「……違うの。そうじゃなくて」
じゃあなんなんだろう?
俺、なんかマズイことやっちまってたのか?
「……えっと。俺さ、馬鹿だからよくわかんなくて────────なんか変なこと言ったりしてたなら悪ィ」
俺がそう言うと水森唯は言葉を詰まらせた。
「……そうじゃないの。私、佐藤君が───────────」
えっ?
どうしたんだよ水森!?
なんだか様子が変だ。
「私に対して……“普通の”……ううん、一軍の女の子達と同じように接してくれたのが…すごく……」
「一軍?」
どうしたんだよ水森は。
「……私、佐藤君は他の男子と違うって知ってたし───────誰にも分け隔てなく接してくれる人だって解ってた筈なのに──────」
結局どういうことなんだ。
水森の言わんとすることが全く掴めず、俺はさらに混乱する。
「水森?」
俺が困惑した様子を見せたからか、水森唯はこう答えた。
「……ごめんなさい。驚かせてしまって───────」
それから水森唯はこう続けた。
「……私、嬉しかったの。“普通の女の子”として扱って貰えたのが初めてで」




