ep10.『聖母と道化、その支配人』 苦戦
「……多分、これは取ることの出来ないアイテムってことなんじゃないかしら」
俺は再びガラスの中に飾られたぬいぐるみを凝視する。
アームの届く位置、ゲーム機中央にピラミッド状に積まれているぬいぐるみは黄色キャラと青いキャラのものだ。
一方、ガラス内の壁部分には赤いキャラやピンクのキャラ、緑や紫のキャラのぬいぐるみがズラリと一列にディスプレイされていた。恐らく全員揃ってるんだろう。
「……そうか?とにかくやってみるしかないだろ?」
俺はそう言いながらコイン投入口に100円玉を積み上げる。
ものは試しだ。
このピラミッド状に積み上げられた山の下に赤いキャラの大豪院ハルトが埋まっているかもしれない。
100円。また100円。
俺は硬貨を乱雑に投入口に押し込みながらひたすらアームを凝視し、山を崩す事を試みた。
しかし。
どんなに硬貨を追加投入しても山はなかなか崩れない。
青や黄色のキャラを取ることどころか掠る事すら出来なかった。
ヤケ気味になった俺はどんどんと100円玉をぶっ込んでいく。
だが、どうすることもできない。辛うじててっぺんのぬいぐるみが地べたに転がっただけだった。
ゴール地点までぬいぐるみを運ぶことも山を崩すことも全く不可能なことに思えた。
そこで俺はやっと気付く。
そうか。
この台、アームが激弱なんだ。
最弱設定にされてるんだな?
苦戦する俺を見兼ねてか、水森唯が店員を呼んで俺のすぐ横に連れて来てくれていた。
「……あの、彼、さっきから3000円以上使ってるんですけどちっとも取れなくて──────────位置を変えて貰えませんか?」




