ep10.『聖母と道化、その支配人』 ギャンブル的な要素
「……あ!あったわ!」
ほら、こっち!と水森唯はややテンション高めにクレーンゲーム筐体を指差す。
[入荷しました!『アイドル⭐︎ぷりんす∞』新作プライズ!]という手描きのPOPが目に留まる。
なるほど、このゲーセンでも“アイぷり”は人気のあるコンテンツなんだな。
水森唯が少し小走りでクレーンゲームに駆け寄った。
「ねぇ見て!佐藤君!ほら!」
水森唯が興奮気味にゲーム筐体のガラスの向こうを指差す。
そこには、“アイぷり”のキャラクターの小さなぬいぐるみが積まれていた。
「……ほら!今月の新作は“三橋譲流”と“哀禅カナタ“のラインナップだったけど────────”大豪院ハルト“のぬいもあるわ!」
水森唯が指差した先を見ると、確かに数種の小さなぬいぐるみを確認できた。
カバンに付けたりするような小さなぬいぐるみにはボールチェーンも付いている。
「なるほど?こういう小さいぬいぐるみってよく女子がスクバに付けてるよな」
これは案外取りやすいかもしれないな、と思った瞬間だった。
「そっか。じゃあ俺、小銭を両替してくるわ」
軍資金の準備をしようとする俺を水森唯が引き止める。
「……え!?ちょっと待って!?」
俺が振り返ると水森唯は再度、ガラスの向こうを指差した。
「“大豪院ハルト”のぬいは──────────取れる位置に無いわ」
俺はもう一度注意深く積まれたぬいぐるみを見る。
そこには金髪のキャラと青髪のキャラ、2種類しか無い。
よく見ると、“大豪院ハルト”はケース内のディスプレイ台座に飾られてはいるがアームの届く位置には居ない。
「は?どういうこと?」




