ep10.『聖母と道化、その支配人』 追いきれない供給の洪水
そうか、プライズって手があったんだよな。
そうだな、とだけ捻り出すと俺は水森唯の顔を見た。
───────俺は何やってんだろう。
そもそも、小泉の推しのグッズを買うってのは単なる口実じゃないか。
今日ここに来たのは水森唯から話を聞き出して事件の真相、水森家に起こった事を探るのが目的であって─────────────
アニメショップで訳のわからない業界の空気に飲まれて引いてる場合じゃないんだよな。
「ああ、せっかくここまで来て貰ったのにすまねぇな」
もう一軒付き合ってくれるか、と俺が尋ねると水森唯は少しホッとしたような表情を浮かべた。
「……ええ、もちろん」
水森唯の心を開いて話を聞き出すつもりだったのにさ、逆に気を遣わせちまってるじゃねぇか。
何やってんだ俺は。
少し自己嫌悪に陥った俺は改めてゲーセンに移動して仕切り直すことにした。
「俺、詳しくねぇんだけどさ。“アイぷり”のプライズは定期的に出てるのか?」
それとなく話を振ると水森唯は丁寧に反応してくれた。
良かった。まだどうにか挽回できそうだ。
「……そうね。SNSで“アイぷり”のプライズ新作情報が流れてたのを見かけたわ」
今月はダイカットクッションとキーチェーンぬいぐるみ、おすわりデフォルメフィギュアが出るみたいよ、と水森唯が開いたスマホの画面を俺は覗き込んだ。
「結構な量がリリースされてんだな」
俺がボソリとそう呟くと水森唯はため息をついた。
「……大手ジャンルだとグッズが出過ぎて全然追いつかないわね。どんなに激選しても入手出来るのは限られるし────────」
水森唯もまた別のジャンル、“プリアリ“を追ってるから小泉の気持ちが理解できるんだろう。
「まあとりあえず行ってみようぜ。何があるか見てみねぇとわかんねぇだろうし」
気を取り直した俺達は繁華街にある大きめのゲーセンの中に足を踏み入れた。
どう転んでも金はいくらあっても足りないって業界なんだな。
 




