ep10.『聖母と道化、その支配人』 報われない熱量
俺は無言のままフラフラと繁華街に向かう道を歩く。
その後を水森唯も黙ってついて来てくれている。
いや、ダメだろ。
ここでショックを受けてる場合じゃないんだ。
だけど。
理解してた筈なのに──────────小泉がどっぷり沈んでいる“沼”とやらの恐ろしさを改めて突き付けられた気がした。
凄まじいまでの熱量の感情と時間と金。
これらを全て注ぎ込める者こそが“推し活“とやらに参加する資格があるとでも?
意味がわからない。
相手は絵だぞ?
存在しない架空の相手ににとてつもない金額をぶっ込むのが“愛”だっていうのか?
─────────馬鹿馬鹿しい。
どんなに入れ込んだ所で向こうは絵なんだよ。
スマホやタブレットの画面の向こうから出て来る訳じゃない。
ましてや。
どんなに恋焦がれても抱いてくれるって事もないんだ。
そんな相手になんでそこまで、と俺が腹立だしいような陰鬱な気分で限界になった時だった。
「……ねえ、佐藤くん」
不意に水森唯が話しかけてくる。
「あ、悪ィ。なんかちょっと考え事してて」
振り返りながらそう答えると、水森唯はこんな提案をしてきた。
「……もしよかったら、なんだけど────────これからゲーセンに行ってみない?」
ゲーセン?と俺が聞き返すと水森唯は頷いた。
「……さっきのアニメショップだとグッズが売り切れだったけど、ゲームのプライズ品だったらそっちにあるかも─────────」
なるほど、プライズ品か!
そういえば以前にも小泉が“アイぷり”のぬいぐるみを取ろうとして失敗してたっけ─────────




