ep10.『聖母と道化、その支配人』 それぞれの金銭感覚
「……まあ、珍しいことじゃないわね」
水森唯はスマホを仕舞うとため息をついた。
「……他ジャンルでもよくあることなの」
俺にはさっぱりわからなかった。
「1000円以上買ったら貰える景品みたいなもんだろ?タダみたいなもんじゃねぇか」
しかも紙だし、と俺が言うと水森唯は首をすくめた。
「……とんでもない!これでもまだ相場は下がった方なのよ」
前回のフェアの時はもうちょっと高い値段で取引されてるのも見たわ、という水森唯の言葉は全く理解できなかった。
ハァ?と俺のキョトンとした顔を呆れたように見ながら水森唯はPOPを指差す。
「……そうね。そう思うのも仕方ないだろうけど────────ちょっとここを見て」
全36種類って書いてあるでしょ、と眉間に皺を寄せながら水森唯は解説を始める。
「ランダムブロマイドだから選べないのよ。だから、自分の推しの欲しい絵柄が数百円〜2000円前後で入手できるならコスパがいいって考える層もいるの」
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そう説明されてもピンと来ない。
「う〜ん……ランダムで36種類ってのはつまり─────────36000円使ったとしても全部揃わないかもしれないって意味だよな?」
俺がそう聞き返すと水森唯は頷く。
1/36の確率で貰えるブロマイドなら、フリマアプリで買った方が早いって意味なんだろうか。
3000円分グッズを買っても3/36の確率なら確実に入手できるトコに数百円〜2000円払った方がいいって判断か?
そんな事ってある?
“アイぷり”のファンってのはいつもこんな感覚で買い物してるってこと?
初めて知る世界に俺は戸惑いを隠せなかった。




