ep10.『聖母と道化、その支配人』 宗教
未知の世界だ。
色彩の洪水。
いや。
多種多様なキャラクターが空間のありとあらゆる箇所に鎮座している。
空白のない場所。
店内には特徴的なアニメ声の曲が流れている。
何かのアニメの主題歌だろう。俺にはそれが何の曲なのかはわからない。
俺は周囲を見渡した。
ぎっしりと───────おびただしい数のキャラクターが目の前にいる空間。
男キャラもいれば女キャラもいる。
その一つ一つに名前があり、物語があり、バックボーンを持っている存在なんだろう。
八百万。
なんとなくそんな単語が頭に浮かぶ。
俺にはさっぱり理解は出来ないが────────このキャラクターの一人一人が誰かにとっての“推し”なんだろう。
誰かの支えになってるならまあいいことなんじゃないか。知らんけど。
経済も回してるようだしな。
店内で熱心に商品を物色する客たちを見て俺はぼんやりとそう思った。
「ところでさ、小泉の推しとやらはどこにあるんだ?」
俺がそう口にすると水森唯は入り口付近の等身大パネルを指差す。
「……ここよ。お店の中心の全面が“アイぷり∞”の特設会場みたいになってるの」
そう言われてみれば。
よく見ると店内の一番目立つエリアに“アイぷり“とやらのポスターやPOPが大きく掲示されていた。
流行ってんだな、こういうのってさ。




