ep10.『聖母と道化、その支配人』 ウワバミと象
さて、それじゃ支度しますか。
放課後。
俺達はバス停で落ち合うことにした。
その前に俺はフーミンのバーに寄ることにする。
給料日が来たら返すことにして、とりあえず金を借りないとな。
幸いにも佑ニーサンはそこに居た。
相変わらず昼間から呑んでいるようだ。
ドアに付けられたベルがカランと乾いた音を立てる。
暗いカウンターに人影が見える。
俺の姿を見るなりその影はゆらりと動いた。
「ん〜?随分と早くない〜?」
どうしたの〜?と佑ニーサンは上機嫌でグラスに酒を注ぐ。
「まだ明るいうちからから随分と出来上がってんなぁ」
俺がそう言うと佑ニーサンはヒラヒラと手を振った。
ふわりと香水の香りがこちらに漂う。何処のブランドのだろう?
爽やかな香水とは対象的な姿の酔っ払いはいつものようにヘラヘラとしている。
「そんなことないよ〜?こんなの全然薄いし〜」
ジュースみたいなもんだし〜と言い張る兄さんが握りしめている青い瓶を眺めた。
確かに、小さめの瓶はなんとなく小洒落ていて気取った印象を受ける。
女性向けの酒だろうか。食前酒的な?
「弱いとか強いとかじゃなくてさ、こんな時間からガブガブ呑んで大丈夫かって話なんだけどさ」
休肝日とか作ったら?と俺が言うと佑ニーサンはまた小さく笑った。
「そうだねぇ。考えとくよ〜」
今はまだ30手前なんだろうけどさ、そんなペースで呑んでたら50の誕生日を迎えられないんじゃないか。
絶対にどっかぶっ壊れるよな。内臓とかメンタルとかさ。
かなりのハイペースのウワバミを目の前にして俺はいつも以上に不安になった。
まあ、けど金に関する頼み事をする時は都合がいいよな。ワンチャン忘れてくれるかもしれねぇしさ。
あ、いやいや。今のは冗談だぜ。ちゃんと返すよ。そこはさ。
お互いにほどほどにしねぇとな。
 




