ep10.『聖母と道化、その支配人』 嘘つきの約束
推し活文化ってのも奥が深いんだな。
ともかく事情はわかったわ、と水森唯はパタンとアニメ雑誌を閉じた。
「……そういう事なら佐藤君が一人で買い物に行くのを躊躇するっていうのも理解できるし───────────」
私でよければいつでも、と言ってくれた水森唯はの言葉に俺はハッと我に返る。
いやいやいや、ボーッとしてる場合じゃねぇ。本来の目的を忘れちゃいけないだろ。
そうだ。
そもそもこれには、水森唯となんとか接触して惨劇を食い止めるっていう大前提があるわけで───────────
その為に水森唯をどこかに連れ出してサシで話を聞くってシチュを作り出す必要があったんだよな。
そう、小泉の推しのキャラのグッズを買うってのはあくまでも表向きの理由なんだ。
だとしたら。
水森唯を誘うのに週末なんて待ってられないだろう。
こうしているうちにも事態は進行していっているかもしれない。
週末を待つ間に水森家の状況が思わぬ方向に転がってしまっていたら───────────?
そう思った俺はダメ元でこう提案する。
「あ、あのさ水森。今日ってダメか?」
……今日!?と水森唯は驚いたように声を上げた。
まあそうだよな。無理もない。
「あの、えっと……俺、今日バイト代が入るんだけどさ。週末まで待ってたら使い切っちまうかもしんなくて」
善は急げって言うだろ?と俺が言うと水森唯は暫く考え込む素振りを見せた。
「……随分と急なのね。まあ確かに今日の午後からなら丁度いいかもしれないけども───────」
これは全くの偶然なんだが、今日に限っていつもと違う時間割の日だったんだよな。まあ、都合がいいっちゃ都合がいいんだが。
給食後にHRを終わらせて一部のクラスを除いて全員下校っていうスケジュールだったんだな。(なんでも、他校から教員が来て研究授業をするとかいうイベントがあるらしい)
授業態度の良い出来のいいクラスが研究授業対象に選ばれてるって話だったんだが、まあ俺らのクラスは見事に該当しなかったって訳だ。
お陰で午後から遊べるからさ、まあそっちの方が絶対いいよな。
小泉は朝から大変そうだった。ご苦労様な事だ。
「……そうね。いつもより早く下校できる今日なら私も─────────」
水森唯はコクンと頷く。
よしよし。いいぞ。とりあえず約束は取り付けた。
後は───────────どこまで水森唯に踏み込んで話を聞けるかって事にかかってるな。
こっからが俺の腕の見せどころだな。




