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ep2 . 『蜜と罰』 真夜中、受胎告知

お前らの学校も期末テスト全部返って来たか?

少年は狼狽し言葉を失った。


大きな火傷の跡。胸の傷。


目を伏せた令嬢の表情。


青い月明かりの中の彼女は昼間の聖女とは全くの別人であるようにも思えた。


どうして俺にこれを……?


少年は令嬢の意図が解らずただ困惑していた。


その言葉の意味を理解出来るほどの人生経験も無かった。


呆然とする少年の有様に令嬢はハッと我に返り、背中を向けた。


「御免なさい、わたくしったら……」


さっきの事は忘れてください、と令嬢は消え入りそうな声で呟いた。


こんなの忘れるって出来ないだろ、と少年は思ったがどうする事も出来ずただ彼女から視線を逸らした。


「どうしたんだよ急に……リセさんらしく無いじゃねぇか?」


少年はそう捻り出すので精一杯だった。


令嬢の華奢な肩は小刻みに震えている。


にゃあ、と黒い子猫は彼女の足元に擦り寄って来る。


「わたくしはこの子に嫉妬してたんですわ……」


どうして、と少年は怪訝そうに視線を子猫に移す。


「……午前中にこの子の妊娠が判りましたの」


令嬢は黒い子猫を抱き上げ悲しげに微笑んだ。


少年は更に狼狽する。


「妊娠……!?」


この子の食欲が無くて……念の為にお医者様に診てもらって判りましたの、と令嬢は子猫の背中を優しく撫でた。


俺のせいだ、と少年は後悔した。


令嬢が避妊手術について申し出てくれたのに先送りなんかにしたから……飼い主なのに何も考えていなかった自分自身を責めた。


「この子は幸せですわね……」


愛されて、妊娠する能力のある身体を持っていて、と彼女は自嘲気味に呟いた。


少年は理解が追いつかず混乱した。


え?どういう意味だ?


令嬢の発言の真意は少年には理解も想像も出来ない事だった。


「……こんなに醜いわたくしは誰からも愛されず抱かれず一生を終えるのがお似合いなんですわ……」


それは自嘲でも自虐でも無い、令嬢の本心からの絶望だった。 


いずれ政略結婚という形で望まぬ相手に嫁ぐであろう自分。


しかし、このような醜い身体では愛される事も抱かれる事も叶わないと心の底から恐れ、絶望していた。


少年にはその言葉の文脈を追う事も、令嬢の心情を推察する事も出来なかった。


女性に対して気配りが出来るほど、まだ大人ではなかった。


しかし。


その令嬢の瞳に浮かんだ涙と表情、そして真夜中の月明かりの空間の中で少年は自分自身に与えられた役割を本能で悟った。


彼は瞬時に全ての状況を理解した。


そして彼自身、自分の立場を呪った。


気付かないまま無邪気に令嬢の胸に飛び込んで甘えられるほど子どもではなく、正当な社会的立場を確立し、正式に令嬢に交際を申し込めるほど大人でもなかった。


子どものようにも振る舞えず、かと言って大人のように責任も取れない。


少年は自分自身が悟った現状を否定した。


俺には無理だ、この人がそんな事をしていいはずがない。


令嬢の硝子のような瞳から大粒の涙が溢れる。


少年はかすかな遠い記憶の淵からある言葉を辛うじて掬い上げた。


『据え膳食わぬは男の恥』


据え膳。


恥。


少年は首を振った。


俺はどうなってもいいんだ。


恥を掻こうが誰に馬鹿にされようが一向に構わない。


誰に軽蔑されたっていいんだ。


しかし。


このご令嬢に恥を掻かせる、彼女を傷付ける事だけはどうしても避けたいと強く願った。


もし俺が拒絶すれば彼女の真心を傷付ける事になるのか。


しかし彼女の願いを受け入れれば彼女の身体は傷物になるだろう。


何せ箱入りの御令嬢なのだから。


既に火傷の痕があるとか、そう言った事は問題では無いのだ。


彼女の純粋さや純潔、それ自体が少年の守りたい物でもあった。


お前ら晩飯何食った?俺はスーパーカップ(鶏ガラ醤油のやつ)と解凍した白米。微妙に足りてねぇ。


続きが気になったらブックマーク登録と評価頼むな。

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