ep10.『聖母と道化、その支配人』 姫君達は空想世界で踊り続ける
随分と都合のいい世界だな。
「……そういうのって男女関係ないんじゃないかしら?」
俺の独り言を聞いていた水森唯はそう反応する。
「……誰だって愛されたいし愛したいでしょう?そこに男女の違いなんてないんじゃない?」
“誰だって”?
俺が黙っていると水森唯はこう追撃してくる。
「……例えば佐藤君、貴方だって」
誰かに愛されたいし、それが魅力的な容姿の異性ならなおさらいいでしょう?という水森唯の言葉は尤もなものだった。
溺愛。
考えたこともなかった言葉だったが───────それは正しいのかもしれない。
人間、誰しも大事にされたいし肯定されたいもんじゃないのか?
誰だってそうだ。
多分俺もそうなんだ。
誰かに認められたい。優しくされたい。他の誰にも浮気しない、自分だけだっていう確信や担保が欲しい。
そういう欲求や願望をひっくるめて全部受け止めてくれるものが“溺愛”っていうジャンルなんだろう。
そうだ。
何もこれは女子に限ったことじゃない。男だって同じだろう。
古今東西、老若男女共通の願い。全人類同じことだ。
理想的な相手に溺愛されたい。
きっとそれは何も不思議なことじゃないんだろう。
だからそれは─────────小泉がそんなキャラ・そんなジャンルに夢中にになったとしても全然おかしくないんだよな。
まあそうだよな。
シンデレラにせよ、白雪姫にせよ──────────────
世界中の女子はおとぎ話に憧れ、王子様を待っている。
それはきっと当たり前のことなんだ。
そうだな。
人間ってのは誰だって愛されたいし愛したいんだ。
その心の隙間を満たしてくれるのが“推し”ってやつなんだろうな。
それはとてもいいことのように思えた。
だけど何故だろう。
心の奥にちょっとだけ───────────チクリとガラス片のように刺さる何かがあった。
その正体は俺にはわからなかった。
まあ、誰が何を望んでも自由だからな。




