ep10.『聖母と道化、その支配人』 口実
「……何?」
水森唯の表情が一瞬固くなる。
まあそうだよな。無理もない。
あ、いや、と俺は慌てて首を振った。
「違うんだ水森。そういうんじゃなくてさ!!」
小泉のことなんだ、と俺は神妙な表情を作りながら言った。
「……小泉先生のこと?」
水森唯は怪訝そうな表情を浮かべながらも俺に質問する。
よし。いいぞ。
なんとなく流れを掴んだ気がした俺は一気に畳み掛けた。
「いや。俺さ。小泉にめっちゃ迷惑掛けてたじゃん。それで流石の俺も小泉に対して申し訳無いって思っててさ──────────」
俺がそこまで話すと、水森唯の警戒のようなものが一気に解かれたような雰囲気を感じた。
「今度バイト代が入るんだよ。だから小泉になんかプレゼントしたいって考えてて」
でも俺、小泉が好きなアニメキャラのグッズとか売ってる場所に心当たりとか全然なくて、と言うと水森唯の目の色が少し変わった気がした。
「だからさ。変な意味とかは全然無いんだけどさ。アニメグッズとかに詳しい奴に買い物に付き合って欲しいってずっと思ってて──────」
俺がそこまで言うと、水森唯は大きく頷いた。
「……そういう事情なら」
まあ、後で詳しく聞いていいかしら、と告げられた俺は内心ガッツポーズを決めていた。
これはほぼ勝ち確だな。俺は確信した。
すまん小泉。ダシに使っちまって。けど許してくれよ。
水森唯を連れ出すにはこうするしかなかったんだよ。
本鈴が鳴り、俺達は慌てて席についた。
[[小泉に渡すためのプレゼントを買う]]
[[その為にはジャンルに詳しい人間のサポートが必要である]]
たしかに、奇妙な設定ではあるが─────────────これで水森唯にもう一度接触できるならこんな便利な口実はないだろう。
まあ、小泉だからこそ成立する荒技だよな。




