ep10.『聖母と道化、その支配人』 即興での演技
マズい、何も考えてなかった。
いや。
そんなことはわかってたことじゃないか。
無理を言って本をまた貸しして貰ったんだ。
しかも家に押しかけてまで─────────だぜ?
そこまでやっといて『何も感想がない』ってのはあり得ないんだ。
頭をフル回転させ、本のカバーの折り返し部分にあったストーリー紹介のような文章を思い出す。
「ん……まあ、なんていうか救いがない話だったなって───────」
俺はとりあえず正直な思いを口にし、時間を稼いだ。
……そうね、と水森唯は深く頷いた。
「なんかさ、意外って言うか────────ああいう図書室に置いてあるような古典名作の主人公ってさ。品行方正っていうか真面目なキャラだとばっかり思ってたから……」
そういうとことか意外だった、と俺が言うと水森唯は俺の顔をじっと見つめてくる。
「……そう。でもなんだか他人とは思えなかったんじゃないかしら」
え?と俺が聞き返すと水森唯は淡々とこう続けた。
「なんだかあの主人公────────ハンスって……佐藤君にちょっと似てないかしら?」
ハァ!?
主人公が俺に似てる!?
バッドエンドで全く救いのない話なんだが───────
予想しなかった、水森唯から放たれた言葉に俺は固まってしまう。
──────────────てかさ、あの主人公ってラストで死ぬんだが!?
酷くね!?




