ep10.『聖母と道化、その支配人』 win-win-win
「……それって」
私を何処かに連れてってくれるっていう意味?と水森唯は俺に訊いてくる。
「え?ああ、あんまり高いトコは無理だけど───────」
俺がそう答えると水森唯は少し考え込むような素振りを見せた。
何か変な勘繰られ方をされてる?
少しビビった俺はこう付け足した。
「あ、いや!あんま深い意味とかなくて!ほら、俺って金無くてよく小泉に食わせて貰ってるからさ!」
なんか、誰かと何かを食いにどっか出掛けるのって普通みたいな感じになってて、と俺は言い訳めいたことをグダグダと説明する。
水森唯は何も言わず俺の方をじっと見つめる。
「なんかさ!この前なんかチェーンのカレー屋でアニメとコラボがあったらしくてさ!コースターだがランチョンマットが欲しいからって理由で俺が連れてかれてさ─────────」
そんでひたすらカレー三皿食ったりしてたんだけどマジでウケるよな?と俺が自虐気味に捲し立てると水森唯は少し笑った。
「そういえば最近、いろんな外食チェーン店でアニメのコラボの頻度が上がってるって気はしてたけど」
小泉先生と佐藤君がそんなに頻繁に参戦してるなんて思ってもみなかったわ、という言葉に俺は全力で首を振った。
「いや、そういうんじゃ無くてさ!俺はアニメコラボとかどうでも良くてタダ飯が食えたらそれでいいんだけど!」
小泉は俺に食わすだけ食わせてカードだの缶バッジだのを回収してくだけでさ!まあお互いに利害が一致してるって言うか!と俺は特にそこを強調した。
さっき水森に“俺が小泉に気がある”みたいな誤解されてたからな。よく言っとかないとまた変な解釈をされかねない。
「……そうなの?じゃあ二人ともwin-winって訳なのかしら」
水森唯は少し面白がるような様子でそう呟く。
俺は何を焦ってるんだろう。




