ep10.『聖母と道化、その支配人』 未確定の勘定と感情
さて、どこまで上手く情報を引き出せるか────────
放課後。
俺達は校門を出て少し離れた所で落ち合った。
俺と一緒に帰っている所を見られたくないのだろう。
それはどちらかといえば水森本人の為と言うより─────────俺に遠慮しているからという気がした。
別に俺は誰かに何かを言われたところで全然構やしないんだが────────
しかし水森唯はそうじゃなかったんだろう。
なんで変なとこで気を使うんだろう、と思った俺はその考えを振り払うように否定した。
いや、そうじゃない。
俺と水森唯は昼休憩の図書室でちょっと喋っただけの仲なんだ。
少なくともこの世界線ではそうだ。
俺はこっちの水森唯の事情も心情も何も知らないし理解してないんだ。
向こうだってそうだろう。俺のことはよく知らない筈だ。
そう。今からどうやってこの距離を詰められるか───────────そこに全てが掛かってる。
俺達は無言のまま暫く歩いた。
どうしよう。
何か喋らないと。
焦れば焦るほど考えがまとまらない。
なあ、と俺は思い切って水森唯に声を掛ける。
「……何?」
少し警戒したような、それでいて俺から声を掛けられたことに対して少しホッとしたかのような複雑な表情。
その顔を見た俺は改めて今回の件の持つ重い意味を突き付けられたような気がした。
そうだ。
忘れてたけど────────────俺の行動次第では死体の数が三つになりかねないんだよな。
あの世界線では水森も相当追い込まれてたし─────────
 




