ep10.『聖母と道化、その支配人』 恋人たちと天動説
なんとか水森との距離を縮めたいところだが……
「なあ、それでさ。水森は俺がどんな本を選んで読書感想文を書いたらいいって思う?」
水森のオススメってどんな本?と俺はここぞとばかりに強調した。
「……そうね」
水森唯は暫く考え込むような素振りを見せた。
「……佐藤君はしっかり授業を聞いてる上にその内容をきちんと覚えてて───────────」
繊細なところもあるから、と水森唯はズラリと本が並んだ本棚を凝視する。
「古典名作なんてどうかしら。意外性があって加賀先生も驚くんじゃないかしら?」
ふむ。
なんかいい感じに進んでるぞ。
「例えば?」
俺がそう訊ねると水森唯は本棚にある本を一冊、手に取った。
「……例えばこれなんかはどう?シェイクスピアなんだけど」
古びた本の表紙には[リア王]というタイトルが箔押しで刻まれている。
「リア王?王様の話なん?」
まあ、そうね、と水森唯はページをパラパラと捲って見せた。
「シェイクスピアを勧めたかったんだけど───────[ロミオとジュリエット]じゃあ佐藤君にはちょっとロマンティック過ぎるんじゃないかと思って」
お。いいぞ。
なんかセンシティブでプライベートな内容に突っ込めるいい糸口じゃねぇか。
「おいおい。俺ってそんなにガキっぽく見えるか?別に恋愛要素とかあるからって苦手な訳じゃねぇし」
俺がそう言うと────────────水森唯は意外なことを口走った。
「……そうよね。佐藤君にはちゃんと好きな人、居るんだものね」
……は?




