ep10.『聖母と道化、その支配人』 共通の話題
使えるもんは使って行くしかない。
まあ、これってちょっとした禁じ手・禁止カードだよな。
親が居ないって状況を利用するみたいで気が引けるが──────────この状況だからな、仕方ないんだよ。
水森唯が一瞬、戸惑ったように言葉を詰まらせる。
そうだよな。急にこんなこと言われても重いよな。
「まあ、俺が勝手に教科書の登場人物に肩入れしてるだけなんだけどな」
俺は付け加えるように更にこう言った。
「俺さ、“スーホの白い馬”も好きだぜ?」
なんか動物とか出る系に弱いのかもな、と俺が明るく振る舞うように言うと水森唯は頷いた。
「そうね。“スーホの白い馬”。あれもかなり印象に残る話だったわね」
学校によって教科書の内容って違うかもしれねぇから補足しとくと、“スーホの白い馬”ってのは小学校の国語の教科書に載ってた話だ。
愛馬を亡くした主人公がその骨で楽器を作って演奏するっていう筋立てのストーリーなんだが────────
「……佐藤君てきちんと真面目に授業を受けてる上に感受性が強いのね」
水森唯は感心するようにしみじみと呟く。
……あ、それなら、と更に水森唯は口を開いた。
「じゃああれはどうかしら?“スイミー”なんかは?」
なるほど、スイミーか。
あれもど定番?の国語の教科書コンテンツの代表作だよな。
「ああ、勿論覚えてるぜ」
俺はうんうんと頷く。
「こう、無能と思われていた異端な存在が集団の中で活躍するってのは今の『なろう系』ってやつの元祖なんじゃないか?」
人間てのはいつの時代もこういうストーリーに弱いのかもな、と俺が取って付けたような考察を述べると水森唯はすっかりリラックスしたような表情で笑った。
「……ふふ。そういう見方もあるのね」
教科書トークってこんなに話が盛り上がるのか?




