ep10.『聖母と道化、その支配人』 迎撃準備完了
よしよし、この調子なら───────
「……!?」
水森唯が戸惑っている様子が俺にも伝わってくる。
そうだよな、まあ一歩間違えばストーカーみたいな発言だし。
どうして、と小さく呟いた水森唯に対し俺は誤解されないように丁寧に説明する。
「いやさ、水森って教室で一年の時の国語の教科書を読んでた事があるだろ?」
復習にしちゃ妙に気になるなって思って見てたんだよ、と俺が言うと水森唯は少しほっとしたような表情を浮かべた。
「……そう。教科書を見てたからって事なの」
まあ、そうだよな。
突然『お前のこと見てたから』って言われちゃ警戒するよな。
「うん。それでさ、一年の国語の教科書にそんな気になる箇所ってあったかなってちょっと考えてさ───────────」
それでもしかしたらって思っただけで、と俺はさも偶然それを言い当てたかのように振る舞った。
「それにしてもそれだけでよく判ったわね」
水森唯はなおも驚いたようにまじまじと俺を見る。
いやさ、と俺は少しオーバーに答える。
「俺もあの話、気になってたんだよな。教科書に載ってる話の主人公なのに盗みを働くとかさ─────────」
教科書の中では異端主人公って感じじゃね?と俺が言うと水森唯は心底驚いたようにこう答えた。
「……意外ね。佐藤君がそこまで教科書を読み込むタイプだなんて思っても無かったわ」
まあな、と俺はやや照れたような様子を作る事を忘れなかった。
「まあ、読書自体は嫌いじゃないんだけどさ、何を読んだらいいかわかんなくて」
新しいジャンルを開拓するきっかけが無かったって言うか、と俺がやや控え目に告げると水森唯は大きく頷いた。
「……そういう事だったの」
私にお手伝い出来ることなら喜んで、という水森唯の言葉を引き出した俺は内心ガッツポーズを決めた。
行ける。
この短い間に水森唯の関心をこちらに向ける事が出来た──────────俺はそう確信した。
よし、意外とどうにかなるもんだな。




