ep10.『聖母と道化、その支配人』 殺し文句
俺は極力、困っているといった具合に強調して言った。
「水森はいつも教室で読書してるだろ?だからこういうのに詳しいんじゃないかって思ってさ」
俺を助けると思ってさ、頼むよ、という俺の言葉に水森は興味を引かれたように思えた。
「……そう。そういう事情なら」
俺は水森の持っていた本にわざとらしく視線を移した。
「うんうん。そうなんだよ。特にさ、加賀が気に入りそうなお堅いタイトルで何かないか?」
俺は畳み掛けるように話題を更に振った。
「俺、小学校の時に[かいけつゾロリ]を読んだのが最後で───────────こういうのに疎いんだよな」
強張っていた水森唯の表情が少し緩む。
「……あら。佐藤君らしいわね」
そうそう、と俺はもっともらしく大きく頷いた。
「ところでさ──────」
俺はなんとなくを装って水森の持っていた本を指さす。
「水森ってどんな本を読んでたんだ?もしかして……」
国語の教科書に載ってた話と同じ作者の小説とかか?と俺が訊くと水森唯は目を見開いた。
「……ご名答。どうして知ってるの?」
まあそうだよな。そういうリアクションになるよな。
水森は手にした本の表紙を俺に見せる。
「……そう。“ヘルマン・ヘッセ”よ。教科書に載ってたのは────────」
水森が言い掛けた所で俺も口を開いた。
「「『少年の日の思い出』」」
二人同時に同じタイトルを発する。
水森唯は口に手を当て、驚いたように俺の顔を見た。
「……どうしてわかったの?」
来た来た。
待ってました、と言わんばかりに────────────俺はこう言った。
「俺、水森のことずっと見てたからさ。だからわかるんだよ」
さあ、どう出る?




