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ep0. 5 「真夏と昼の夢」(暴れる心臓)

この状況でずるいわ。

少年は言葉の意味を理解しきれずその動きを一時停止させる。


マコトは刺すように少年の目を見つめる。少年はその視線を逸らすことも出来ずに硬直する。


「今日まで生きてたガックンは今日僕と一緒に死んでさ」


マコトの顔がゆっくりと少年に近付く。


「明日からは別のガックンに生まれ変わるの」


それでいいんじゃない?とマコトは既に決定された事柄のように提案する。


背筋が痺れたような感覚がした。


少年は目を見開いてマコトを見た。


一瞬の沈黙が二人の呼吸を止めた。


でも、もし妊娠したら……と少年は狼狽しながら答える。


「緊急避妊薬ってさ、あるの知ってる?」


あれ飲んだら妊娠しないから。


「だから何も心配ない」


マコトの言葉が少年の紙一重の理性を剥ぎ取っていく。


完敗だった。


最初のマコトの“お願い”とやらを少年は持てる気力と魂の全力で打ち返したのだ。


しかし。


更にそれを上回る形でマコトは鮮やかにカウンターを入れて来た。


見事なまでの太刀筋。


少年の耐久力を遥かに上回る一撃だった。


彼にはこれ以上抵抗できるだけの理性も気力もロジックも残されてはいなかった。


少年は観念し、その瞬間に矜持も信念も打ち捨てた。


理性はとっくの昔に既に飛んでいた。


マコトが先に目を閉じる。その唇は少年の答えを待っていた。


ゆっくりと震える唇がそっと触れて重なる。


少年がマコトの華奢な肩をぎこちなく抱き寄せた。


少年の心臓はその意思とは関係なく好き勝手に暴れ始めた。


マコトの心臓も同様だった。


いつもの人工的な葡萄の香りがした。











その味を知るのは初めてだった。


実質負けだろ。

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