ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 男子中学生達の思考ロジック
たまにはこういうトコでかき氷食うのも悪くないな。
「……」
自分の作ったかき氷を食べながら御月は静かに頷いた。
「……かき氷でレモン味を食べるのは初めてだ」
「そうなんか?どうだ?レモン味は?」
俺がそう訊くと御月は手元のかき氷に視線を落とす。
「……子どもの頃から思ってたんだ。かき氷のレモン味って────────」
雪の上で立ちションしたみたいだよな、とボソリと呟いた御月の言葉に俺は口に含んだ物を吹き出してしまう。
「………ぶはっ!!笑かすなよ御月!?」
「あ、いや。食べてる最中にすまん」
真剣な表情でとんでもないことを口にした御月の感性が意外に感じられた。てか、こんなキャラだったっけ?
「いや、まあ……男だったら誰だって一回はそう思うもんじゃね?」
俺がそう言うと御月は頷いた。
「そうだろう?縁日や祭りとかでかき氷を食べる機会があるとして───────レモン味ってあんまり選ばなくないか?」
突然の御月の問いかけに対し、俺は思考を巡らせる。
「そういやそうだよな……かき氷って聞いてイメージするのってやっぱイチゴ味って気もするし──────レモン味って地味だしな」
そうだな、と御月も相槌を打つ。
「かき氷のイラストやイメージ写真なんかでも……イチゴ味が多いもんな」
だからどうしても……エース級のイチゴ味か、もしくはノスタルジックなメロン味、夏らしく清涼感のあるブルーハワイって選択肢になるよな、と御月は続けた。
「確かに。金払ってまでレモン味ってあんまセレクトしないって感じだよな。ションベンみてぇなイメージがチラつくし」
今回のこの模擬縁日みたいな祭りは完全フリーで金銭のやり取りは一切発生してない。
いわば、身内だけのパーティーみたいなもんだからな。各自セルフサービスっていうか、野生のすたみな太郎みたいな感じっていうか。
御月は頷く。
「今回、自分が作る側に回ったから初めてレモン味を選んだんだが───────」
あんまりレモン感はないな……と御月はスプーンを口に運びながら唸る。
「まあ、かき氷のシロップって全部同じ味っていうもんな」
俺が何気なくそう口にすると御月が目を見開いた。
「……シロップが──────全部同じ味!?」
あ、いや、と俺は少し戸惑う。
普通に雑学っていうか、豆知識的なヤツで有名なハナシだと思ってたんだよ。
「なんかさ。かき氷のシロップって色と香料が違うだけで……味は全種共通らしいじゃんか。知らんけど」
俺がそう言うと御月は立ち上がった。
「それは本当なのか、佐藤?!」
そんな大袈裟なリアクションしなくても。
御月はおもむろにかき氷のコーナーに戻り、置いてあるシロップのボトルを眺めた。
「……本当かどうか試してみよう」
全てのシロップをかき氷に順番に掛け始める御月。
「おいおい。マジかよ」
目の前に出現したカラフルな物体。
それはさながらゲーミングかき氷といった所だろうか。
「……キクコのヤツ、イチゴ味が切れてるなんて言ってたがここにあったじゃないか」
全色掛けられたかき氷をスプーンで掬って口に運ぶ御月。
「なあ。どうだ?全部載せのかき氷の味ってさ────────」
俺が面白半分にそう訊くと御月は静かにこう言った。
「……本当に全部同じ味だ────────」
まあ、何事も試してみねぇとわかんねぇよな。




