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ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 青い体温

めっちゃ気まずい。

二人はお互いに向き合ったまま黙っている。


賑やかな祭り会場の中だからこそ───────この沈黙が異質なものに思えた。


俺は無言のままマコトの横に立った。


少し俯いたマコトが思い切って言葉を発したのが理解った。


「……イチゴ味、ある?」


諸星キクコは一瞬黙った後、視線を台の上に落とす。


「ゴメン。イチゴ味だけ品切れ」


他のヤツなら全部揃ってるけど、と諸星キクコは静かに言った。


いつもとは違う二人の様子に、俺の方が居た堪れなくなる。


どうすんだこれ。


やっぱり俺が何か声を掛けるべきか?


そう思った瞬間────────俺の指が何かに触れた。


マコトだった。


マコトが、諸星キクコから見えない位置で─────────俺の右手をぎゅっと握っている。


「……!?」


俺は当然のように戸惑う。


けど。


これは“そうじゃない”ってことにすぐに気付いた。


マコトの視線の先に居たのは────────やっぱり諸星キクコだった。


「……そう。品切れなんだ」


残念、と呟くマコトの声が少し震えていたのに気付く。


「おまかせでいいなら適当に作るけど?」


諸星キクコは素っ気ない様子でそう言った。


二人の視線はぶつからない。


「……じゃあ、お願いしようかな」


マコトは相変わらず俺の手をギュッと握っている。


まるで迷子になるまいとする幼児のようだ。


「了解」


諸星キクコが小さく頷き、かき氷を作り始める。


ゴリゴリと音を立てて透明な氷が削られていく。


フワフワと雪のように白いものが小さな器に降り積もっている。


「……」


マコトはただ黙ってそれを見つめていた。


真っ白な積雪にシロップが注がれる。


「はい。出来たわよ」


諸星キクコからマコトに手渡されたそれは────────眩しいほどに透明なブルーだった。


「……ん?ブルーハワイ?」


マコトが咄嗟にそう口にすると、諸星キクコはこう答えた。


「アンタのイメージっていつもこの色だったから────────」


「……えっ」


マコトが息を呑むのが隣の俺にも伝わって来た。


「……そう」


マコトが諸星キクコからかき氷を受け取ると、後ろから御月が出てきた。


「それじゃ、後は俺がやるから。少し休憩してくるといい」


「え?」


諸星キクコが振り返ると、御月は一人でかき氷を作り始めた。


ゴリゴリという音が周囲に響く。


「さっきから準備、お前ばっかりやってただろう?」


ここらで交代しよう、と言った御月の意図がなんとなく察せられた。


意外にも手際良くかき氷一つを作った御月は─────────またブルーハワイのシロップをそれに掛けた。


「……ほら。これ食べて休憩してこい」


「………」


諸星キクコは無言でそれを受け取ると、やや躊躇しながらもマコトに声を掛けた。


「……えっと。じゃ、一緒に食べよっか」


「え、あ。うん」


俺の手を握っていたマコトの手は解かれ、二人はベンチの方に歩いていく。


俺は呆然としながら二人の背中を見送る。


御月はまたしてもゴリゴリとかき氷を作り始めた。


意外にもハマってしまったらしく、心なしか御月の表情は楽しそうに見えた。


「なあ、御月。お前、知ってたのか?」


何気なく俺が口にすると、御月はいつものように答える。


「……ん?なんのことだ?」


どうやら御月はマコトと諸星キクコの間に起こった事を把握していない様子だった。


「……ほら。出来たぞ」


御月は自信満々にかき氷を俺に差し出す。


掛けられたシロップはやっぱりブルーハワイだった。


てか、御月は単に自分がやりたかっただけなんじゃねぇのって疑惑が出てきたが……とりあえず受け取って食べることにした。


食べている最中、ふとベンチに座ったマコトと諸星キクコが視界に入る。


どういう訳か──────二人はお互いに舌を出し合って笑っていた。


青い舌。


ああ、ブルーハワイ食ったらそうなるよな。


かき氷を食べながら俺も舌を出してみる。


自分からは見えねぇけど多分、俺の舌も真っ青になってんだろう。


青い舌か。









あの日マコトが失くしてしまった絵の具の色は─────────────最初からここにあったのかもしれない。なんとなくそう思った。


お互いに口を開けなきゃ見えねぇからな。

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