ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 秋祭り開催RTA⑩
マジでもう時間ねぇじゃん?
そうこうしているうちにあっという間に給食時間になってしまう。
給食当番が配膳の準備をしている。
当番でない俺達は中庭に出て呆然としていた。
「てかよォ、どうするんだよこれから」
ドッペルゲンガーはポリポリと後頭部を掻く。
「もうメンバー集めとかやってる時間じゃねぇしな。祭りの出し物とか、どうやって元の飲み会っぽい雰囲気に近付けるかとか考えねぇと─────」
残り7時間……いや、6時間ほどか?
けど、俺達がこれ以上動ける事ってもうなくね?
そう思っていた時、不意にスマホが鳴った。
画面を見るとマコトからの着信だった。
急いで体育館裏に移動し、かけ直す。
「……あ。ガックン?どうなのお祭りの準備の方は?」
状況はどんな感じ?と無邪気に訊ねてくるマコトに対し、つい弱音を吐いてしまう。
「うーん。どうだろ?お前が来れる事になったってのは良かったけどよ、他のヤツ誘ったら断られちまって」
なんかどうしようもねぇコトもあるよな、と俺がこぼすとマコトはそれに反応する。
「え?誰を誘ったの?概史とかはフツーに来るんでしょ?誰が来れないの?」
「ウチの学校の同級生だったんだけどさ────今は転校してって居ねぇんだけど夢野くるみって女子で」
俺が言いかけるとマコトは食い気味に反応する。
「は?え!?夢野くるみ!?夢野くるみってあのインフルエンサーの!?」
まあそうなんだけど、と俺は言葉を濁した。
「なんでなんで!?仲良かったの!?なんでガックンはその子を呼びたいの!?」
マコトの食い付きっぷりに俺は少し引いてしまう。
他校のマコトがここまでのリアクションってことは、今や夢野くるみはインフルエンサーとして押しも押されぬ存在ってコトなんだろうな。
「もしかして……その子となんかあった?」
いや、なんもねぇし、と俺は否定したがマコトは引き下がらない。
「え?じゃあなんでガックンは夢野くるみを呼びたいの?」
どうしよう。
別の世界線……ドッペルゲンガーが居た世界での状況を再現したいって言っても説明できねぇもんな。
「あ、いや。うちの兄貴……従兄弟なんだけどさ。そいつがどうしてもって聞かなくて」
俺は適当にドッペルゲンガーの希望というテイで説明した。
「え?あ。そうだったんだ……そっかぁ」
どうやらマコトはその説明で納得したようだった。
「そういうコトなら呼んであげたいけどねぇ……彼女、もう転校してるんだっけ?」
まあ、今日はこっちに帰って来てるみたいだから誘ったけど断られたんだよな、と俺がボソリと呟くとマコトの反応がまた変わる。
「え!?いまこっちに居るの?夢野くるみが!?」
カタカタというキーボード音が僅かに聞こえる。
通話しながらパソコンでなんかしてんだろうか?
「……あ。ねぇねぇ。彼女ってもしかしてアニメとか好き?」
随分と唐突な質問だな。
「ん?ああ、確か前に好きって言ってたな。なんだっけ、お姫様が出る幼児向け?みたいなやつ?」
「もしかしてそれって『小さなプリンセス アリア』ってタイトル?」
そういえばそんな名前だった気もする。
「ああ。そうだな。なんか『プリアリ』みたいに言ってたのを聞いた気がするな」
俺がそう答えると、マコトはフフ、と余裕ありげに笑ってみせた。
「もしかしたら───────夢野くるみを呼ぶことが出来るかもよ」
マジで!?




