ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 帯に短し襷に長し
水森、ホントに嬉しそうだな。
「……では私はこれで」
日誌を小泉に手渡した水森は足早に美術準備室を出た。
「───で、どうする?」
小泉は俺とドッペルゲンガーの顔を交互に見る。
「へぇ!アイツがこっちに来るって?」
めっちゃタイミング良くね?と佐藤次郎(仮)は軽い調子で適当なことを言う。
いやいやいや……
「そりゃ、マコトは呼べば来てくれるだろうけどよ──────」
夢野とはゼンゼン絡みがねぇし……久しぶりに地元に帰って来たのに面識ない連中の集まりに来るか?ってハナシだろ、と俺は二人を静止する。
「そうかァ!?」
何とかなるんじゃね?という佐藤次郎(仮)に対し、俺は首を振った。
「夢野はまだいい。ワンチャン来てくれるとしても─────」
岬京矢とか他校の三年じゃねぇか。一切絡みが無さすぎて連絡取るのすら無理だろ、という俺の言葉に対し小泉が口を開いた。
「『類は友を呼ぶ』とも言うだろう?向こうの世界でこのメンツが集まってたってことは──────」
引き寄せ合う何かがあるんじゃないのか、と小泉は俺を見ながら強調する。
「何だァ!?『蛇の道はヘビ』って事かァ?」
佐藤次郎(仮)が妙な例えを出してくる。
てか、どっちの世界であっても自分が関わってる連中が蛇だとか思いたくないんだが。
「待て待て。それってあんまいい例えじゃなくね?」
うーん、と小泉も考え込むような仕草を見せる。
「類似する諺ではあるかもしれんが─────やや微妙ではあるな」
そうじゃねぇだろ、と俺は再び首を振った。
「ここで諺の適切な用法や意味を探っててもしょうがなくね?要はこの飲み会メンバーに何かの共通点があるって言いたいんだろ?」
まあそうだよなァ、と佐藤次郎(仮)も同意する。
「まあ、とにかく今晩は御月の家でお泊まりする謎のイベントが発生してるしさ」
そもそも明日、急に飲み会するってのも無理があんだろ。普通に仲良い間柄でも都合つかん場合だってあるだろうし。
ふむ、と小泉は膝を打った。
「『三人寄れば文殊の知恵』とも言うだろう。お前達三人が集まれば何かいい案が浮かぶかもしれん」
「は?」
思わず俺は聞き返す。
「御月レイジとこの佐藤次郎(仮)はほぼ初対面であるにも関わらず、何故か急にお泊まり会のアポが成立してるだろう?」
『渡りに船』とはこの事じゃないか、と小泉はやや得意げに俺を見る。
何でドヤ顔なんだよ。都合よく考えすぎだろうが。
「『馬鹿の考え休むに似たり』とも言うだろうがよ。そう上手くはいかねぇよ」
俺が溜息混じりにそう言うと、佐藤次郎(仮)は腹が減ったのかこう言い出した。
「それよりよォ、食べきれねぇほどの牛肉があるんだろ?レイジんちに早く行こうぜ!」
「……いや。兄貴さ、今までのハナシちゃんと聞いてた?」
俺がやや呆れながらそう尋ねると、佐藤次郎(仮)は自信満々にこう言い放った。
「……それってよォ、『善は急げ』ってコトだろ!?」
『マンガで読むことわざ大辞典』的な不自然な会話じゃねぇか。学習マンガかよ。




